税務調査でボコボコにした話(元国税調査官が語る)
あれは7年前の事。
私が統括官となり、役職が付く前の話です。
当時は、調査官として
相続税申告の調査をバリバリ行っていた時期です。
8月の熱い夏の日でした。
亡くなられたのは父親でした。
税務調査当日は軽い挨拶から始まり、
午前中は亡くなられた方の思い出話、生前の状況や、資産形成の経緯を聞きます。
趣味や資金管理についてもヒヤリングしていきます。
因みに、税務当局はこの時点で指摘する事項を既にロックオンしています。
この時は何を指摘したかったかというと。
生前の多額の資金流出です。
亡くなられた方の通帳から過去15年に渡り数億円の資金が流出していたのです。
子や孫に贈与した?
奥さんに名義預金を作り管理している?
現金で隠し持っているか?
親族の通帳を銀行に紹介をかけても、それらしい入金もない。
亡くなられた方名義での古美術品の購入もなさそう。
ちょっと補足ですが、
税務署は預金であれば国家権力の名の基に、銀行に照会をかけれます。
また、
骨とう品や美術品、金やプラチナなどは購入者リストを入手しています。
バレないとか思わない方が良いですよ。
相続人
「えっとね、脳梗塞で亡くなりました」
「いつも元気に毎日散歩するのが日課でした」
私
「では、預金通帳や印鑑の管理状況を確認したいので、普段管理されていた場所へ案内していただいてもいいですか?」
相続人
「父は、ここにいつも入れて管理していました」
案内されたのは金庫
ここで私は確信しました。
相続人の方が嘘を言っていると。
何故か。
実は、事前に裏を取っっていたんですよ。
病院に。
御父様は18年前、不幸にも転倒した際に頸椎損傷で寝たきり状態のまま病院にいたのです。
銀行紹介による取引履歴には、亡くなる直前まで引出が。
体を一切動かせない父親が、いつも金庫で管理していたと?
午後に入り、実際に指摘事項を伝えていきます。
私
「○○さん、さっきね、お金の管理は御父様が金庫でとおっしゃっていたじゃないですか」
「我々は事前に病院で御父様が寝たきりだと知ってここにきています」
「金庫で管理していたのは誰ですか?」
「一緒に住んでいたのは貴方ですよね」
「通帳の履歴もかなり引出が多いです」
「これも銀行で調べてあるんですよね」
相続人
「あ、、、あ。」
「それは病院への支出ですよ。 支払わなきゃいけなかったので。」
私
「さっきは元気に散歩に行くのが日課だとおっしゃってたじゃないですか」
「なぜ嘘を?」
相続人
「・・・・・。」
私
「もっというと、実際に病院の支払いに必要だったとしてですよ」
「お父様が入院されてから、いくら資金の引き出しがあったか、把握されてますか?」
相続人
「・・・・わかりません」
私
「3億以上です」
「人は寝たきりになると3億必要なんでしょうか」
相続人
「いいえ」
私
「では、医療費以外のお金はどうなったんですか?」
相続人
「・・・私が使いました」
「あの・・・」
私
「…当然です。 他の相続人の方の税額も変動しますからね」
「今日はこの事を確認し、指摘するために来てるんですよ」
「結論から言いますと、この使った金額のうち医療費でない部分は相続財産として加算して修正申告をして頂きます」
相続人
「いや、でもこれは贈与を受けたんだよ、贈与」
「もう時効のも多いでしょ?」
何かで読んだ贈与税申告の訴求期間の事を持ち出します。
贈与は一定期間が経過すると時効であり、支払い義務はないと。
私
「いや、これはそういうことではないです」
「民法703条の不当利得の返還義務といいます」
「つまり、渡してなかったと考え、加算し、追徴税を払っていただくという事です」
これは民法に定められた法律で、簡単に説明します。
『勝手に使って、他の相続人の相続分に多大な損失を与えてるから、相続財産に戻してね♡』
『そして、加算後の金額で税金計算して差額は払ってね♡』
『延滞税と加算税は最大限課税していくから覚悟してね♡』
『嘘ついたから有利な規定も使わせないんでよろしくね♡』
という事です。
結局、この方には2億円近い追徴税が発生しました。
名義預金もそうですが、使い込みや、誤った贈与の考え方は非常によく見られます。
税務署は必ず裏を取り、不正があれば逃さず指摘します。
バレないだろう、これくらい良いだろうという気持ちでいると危険です。
以上