目次
海外不動産と相続税対策の安全性|現地法制・為替リスク・管理コストを解説
節税メリットよりリスクが重い理由を専門家視点で整理
海外不動産を使った相続税対策は、見かけ上の節税メリットよりも「税務調査リスク・二重課税・為替・管理コスト」の方が重く、慎重な設計と専門家連携が不可欠です。特に日本では海外不動産も原則として相続税課税対象となるため、「海外だから相続税が軽くなる」という発想だけで動くべきではありません。
この記事のポイント
- 海外不動産は相続税の抜け道ではなく、日本の相続税の課税対象になるケースが多い。
- 現地法制・二重課税・為替・管理費用を含めて「トータル負担とリスク」を比較することが重要。
- 節税目的のスキーム(とくに中古海外不動産)には、既に国税庁の規制・否認リスクがある。
今日のおさらい:要点3つ
- 海外不動産は日本の相続税から逃げられないことが多く、節税効果は限定的です。
- 二重課税・為替変動・現地相続手続きなど、国内不動産にはない追加コストと手間が発生します。
- 安全な相続税対策のためには、国内外の税制・相続法に詳しい専門家と事前に設計することが必須です。
この記事の結論
- 海外不動産は「相続税対策」としてはリスクが高く、節税の主役にはなりにくい資産です。
- 日本居住者の相続では、海外不動産も原則として日本の相続税課税対象です。
- 現地法制の違い・プロベート(検認)手続き・二重課税により、手続きは長期化・複雑化しがちです。
- 為替変動・送金手数料・管理コストにより、相続後の「手取り」は想定より減る可能性があります。
- 最も大事なのは、節税額よりも「安全性・手続きのしやすさ・家族の負担」のバランスを優先することです。
海外不動産を使う相続税対策は本当に有効か?
海外不動産は相続税の王道対策にはなりにくく、むしろ慎重に限定利用すべき手段です。日本の相続税ルールでは、日本居住の被相続人・相続人が関わる相続では海外不動産も含めた全世界の財産が課税対象になるケースが多く、期待したほどの節税にならないからです。
日本の相続税と海外不動産の基本
- 日本居住の日本人同士の相続では、海外不動産を含む全世界の財産が原則として相続税の対象になります。
- 2017年以降の税制改正等により、短期の海外移住などで国外資産を非課税にするようなルートは大きく制限されています。
- 一部の国では相続税や遺産税が課税されるため、日本と現地の両方で課税される二重課税リスクが生じます。
このため、「海外の方が相続税が安いから節税になる」という単純な構図は成立しません。
なぜ「節税向きではない」と言われるのか
- 日本側では通常どおり相続税課税される一方、現地でも相続税・遺産税が課される可能性があるため、総税負担はむしろ増え得ます。
- 外国で払った相続税は、日本側で外国税額控除として一部控除できますが、控除には上限・要件があり、完全な二重課税排除にはなりません。
- 節税目的で注目された「海外中古不動産の減価償却スキーム」は既に税制改正で封じられ、過去分にも遡って否認された事例が出ています。
結果として、現行ルールのもとでは、海外不動産を相続税対策の主軸に据える合理性はかなり薄いと考えた方が安全です。
代表的なトラブル事例のイメージ
- 高額所得者が米国中古不動産を節税商品として購入し、多額の減価償却で所得を圧縮していたが、税制改正後に損益通算が認められなくなり、追徴課税を受けたケース。
- 相続開始後、アメリカのプロベート手続きが長期化し、日本側で相続税の申告・納税期限だけが迫り、一時的な資金繰りに苦労したケース。
- 円安局面でドル建て不動産の評価額が膨らみ、日本円換算の相続税額が想定より大きくなったケース。
こうしたトラブルを避けるためにも、海外不動産を使う相続税対策は「節税よりリスク管理・資産分散の一環」と位置づけ直すことが重要です。
海外不動産と現地法制・二重課税リスク・法的トラブル
なぜ現地法制が重要なのか
海外不動産を相続する際に最も大事なのは、現地の相続法制と日本の税制の組み合わせを正しく理解することです。不動産は所在国の法律(所在地法)に従うのが国際的な原則であり、日本の感覚だけで手続きや分割を進めることはできません。
- 多くの国では不動産について、所在国の相続法・不動産登記制度・強制相続分ルールなどが適用されます。
- アメリカなど一部の国では、プロベート(遺言検認・裁判所監督下の遺産分割)という独自の手続きが必要になり、期間・コストともに負担が大きくなる傾向があります。
二重課税リスクと外国税額控除
- 日本は居住地主義の考え方に基づき、日本居住者については全世界の財産を相続税課税対象としています。
- 他方、アメリカなど多くの国は所在地主義に基づき、自国にある不動産に対して遺産税・相続税を課税します。
- この結果、同じ海外不動産について、日本と現地の両方で相続税等が課税される二重課税が発生し得ます。
これを調整するため、日本には「外国税額控除」という制度があります。
- 外国で既に納付した相続税を、日本の相続税額から一定の限度で控除できる制度です。
- ただし控除額には上限があり、必要書類も多く、実務上は専門家の関与がないと適用が難しいケースもあります。
つまり、「二重課税は制度的に完全には消せない可能性がある」という前提で設計することが現実的です。
法的トラブルの代表パターン
- 現地の強制相続分(特定の相続人に最低限の取り分を保障するルール)が、日本の遺言内容と衝突し、現地側で訴訟リスクが生じるケース。
- 現地の所有制限(例:一部国での外国人土地所有制限)により、生前は問題なくても、相続時に名義変更や売却が難航するケース。
- 現地の遺産税・登録免許税・弁護士費用などが想定より重く、相続人が手出し資金を用意しなければならなくなるケース。
このように、海外不動産を使う相続税対策では、「節税額」だけでなく、現地法制と日本の税制の交差点で起きる法的・実務的トラブルを予め織り込む必要があります。
為替リスク・管理コスト・節税スキーム規制の実態
為替リスクは相続税額にも直結する
為替レートの変動は、海外不動産の評価額と相続税額そのものを動かすリスクです。
- 海外不動産を日本の相続税で評価する際には、相続開始日の為替レート(通常はTTBレート)が使われます。
- 円安が進むと、同じドル建て資産でも日本円換算の評価額が膨らみ、相続税負担が重くなる可能性があります。
また、相続後に外貨建て資産を円に戻すとき、相続時より円安であれば、為替差益が雑所得として課税されることもあります。
- 相続税評価額(相続時点のレート換算額)を上回る金額で円転した場合、その差額が所得税・住民税の対象になる仕組みです。
このように、「相続時」「売却時・円転時」の二段階で為替を意識しなければならず、シンプルな国内不動産と比べて税務管理は格段に複雑になります。
管理コスト・空室リスク・インフラ
- 海外不動産では、現地の管理会社への委託費・修繕積立・共益費・現地税金など、継続的な維持コストが発生します。
- 時差・言語の壁により、賃貸管理やトラブル対応に時間と精神的負担がかかりやすくなります。
- 国・地域によっては、政治情勢・治安・インフラ整備の影響を強く受け、賃料や物件価値が不安定になりやすい面もあります。
これらを踏まえると、「管理が困難な海外物件を残すことは、相続人にとって本当にプラスなのか」という視点が欠かせません。
海外中古不動産スキームへの国税庁の対応
過去には、「中古の海外不動産を買って短期間で大量に減価償却し、国内所得と損益通算して節税する」スキームが富裕層向けに広く販売されていました。
- 日本の旧ルールでは、海外中古不動産にも日本の法定耐用年数の簡便法を適用でき、多額の減価償却費を短期間で計上することが可能でした。
- これにより、不動産所得に赤字を作り出し、給与所得など他の所得と損益通算して所得税負担を大幅に軽減する手法が横行しました。
しかし、令和2年度の税制改正で状況は一変します。
- 国税庁は「経済的実態と乖離した損失計上は税の公平を損なう」として、国外中古建物に対する簡便法部分の減価償却について、損益通算を認めない方向に制度を改めました。
- 一部では、過去取得分も含めて節税効果を否認する厳しい運用が行われ、追徴課税が発生した事例も報じられています。
このような経緯から、「節税商品としての海外中古不動産」に乗ることは、現時点では明らかにリスクが高い選択といえます。
よくある質問(Q&A)
Q1. 海外不動産を持っていると日本の相続税はかかりますか?
日本居住の被相続人・相続人であれば、海外不動産を含む全世界の財産が相続税の課税対象になることが多いです。
Q2. 海外で相続税を払ったら日本の相続税は不要ですか?
不要にはならず、原則として日本でも相続税が課され、一定の範囲で外国税額控除により二重課税が調整される仕組みです。
Q3. 海外不動産を使った節税スキームは今も有効ですか?
中古海外不動産の減価償却を利用した損益通算スキームは、令和2年度税制改正により実質的に封じられており、以前ほどの節税効果は見込めません。
Q4. 為替レートは相続税にどう影響しますか?
相続開始日のレートで海外不動産の評価額を円換算するため、円安だと評価額と相続税額が増え、円高だと減る可能性があります。
Q5. 相続後に外貨を円に換えた時の為替差益は課税されますか?
相続時点より円安の状態で円転して利益が出た場合、その差額は相続人の雑所得として所得税・住民税の課税対象になります。
Q6. 海外不動産相続の手続きはどこに相談すべきですか?
日本の相続税と国際相続に詳しい税理士・弁護士・現地専門家が連携している事務所に相談するのが安全で、現地法制と二重課税をまとめて確認できます。
Q7. 海外不動産は相続税対策としてやめた方がよいのでしょうか?
一概に禁止すべきではありませんが、純粋な節税目的で選ぶのはリスクが高く、資産分散の一部として慎重に位置づけるのが現実的です。
まとめ
- 海外不動産は、日本の相続税から逃れるための抜け道ではなく、日本居住者の相続では原則として課税対象に含まれます。
- 現地の相続法制・プロベート・二重課税・為替変動・管理コストを総合すると、節税よりもリスクと手間が勝りやすい手段です。
- 中古海外不動産を使った減価償却スキームには、税制改正と厳格な運用により追徴リスクが生じており、安易に利用すべきではありません。
- 海外不動産を活用する場合は、「節税」よりも「資産分散と長期運用」を主目的とし、日本と現地双方に通じた専門家と事前に設計することが不可欠です。









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