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相続税の生前対策|家族信託が向いている人の特徴と選び方を解説
家族信託は、相続税そのものを直接下げる制度ではありませんが、「認知症リスク」「不動産の管理」「二次相続までの承継ルール」を心配している方にとって、生前対策の土台として非常に相性の良い仕組みです。
結論として、相続税の生前対策として家族信託が向いている人は、「資産規模が一定以上あり、将来の資産凍結や家族間トラブルを避けながら、相続税対策を計画通りに進めたい方」です。
家族信託は、委託者(財産の持ち主)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分・承継方法を託す契約であり、認知症などで判断能力が落ちても、事前に決めたルールどおりに資産管理や生前対策を続けられる仕組みです。
一言で言うと、「相続税を減らす”技”というより、相続税対策を含めた資産管理を止めないための”器(プラットフォーム)”」が家族信託だと考えていただくと分かりやすくなります。
この記事のポイント
- 家族信託は、直接の節税効果はないものの、認知症後も不動産の売却・賃貸・組み替えなどを続けられるため、間接的に相続税対策を支える仕組みです。
- 向いているのは、①認知症リスクを真剣に心配している人、②不動産・自社株など”動かしづらい資産”を持つ人、③二次相続まで承継順序を指定したい人などです。
- 安全に選ぶには、「本当に家族信託が必要なケースか」「受託者に適した人材がいるか」「費用・手間と得られる効果のバランス」を、遺言・生前贈与など他の手段と比較して検討することが重要です。
今日のおさらい:要点3つ
- 節税スキームではなく資産管理の仕組み
家族信託は「節税スキーム」ではなく「資産管理・承継設計の仕組み」。 - 認知症・不動産・二次相続の不安が大きいほど有効
認知症・不動産・二次相続の不安が大きいほど、家族信託のメリットが大きくなる。 - 他の対策との比較で選ぶ
向いている人・向いていない人の特徴を押さえたうえで、遺言・生前贈与との比較で選ぶことが大事。
この記事の結論
- 家族信託は、相続税を直接安くする制度ではなく、「認知症後も資産管理・相続税対策を継続できる仕組み」として生前対策に向いています。
- 向いているのは、認知症リスクが高い・不動産や賃貸物件を複数持っている・二次相続まで承継ルールを決めたいといったニーズを持つ人です。
- 結論として、相続税の生前対策として家族信託を選ぶかどうかは、節税目的だけで判断せず、家族の状況・資産の内容・他の対策との組み合わせまで含めて、専門家と一緒に検討するのが最も安全で現実的な選び方です。
家族信託はどんな仕組みで、相続税の生前対策として何ができるのか?
結論として、家族信託は「財産の名義と実質的な利益を分けて管理できる契約」であり、相続税対策そのものではなく、”相続税対策を妨げないための仕組み”として機能します。
家族信託の基本構造(委託者・受託者・受益者)
一言で言うと、家族信託は次の三者で構成されます。
- 委託者: 自分の財産を信託する人(多くは親世代)
- 受託者: 信託された財産を管理・運用する家族(多くは子ども)
- 受益者: 信託財産から経済的利益を受け取る人(生前は委託者、死亡後に子などへ交代させる設計が一般的)
例えば、「父(委託者・受益者)が自宅と賃貸マンションの管理を長男(受託者)に任せ、家賃収入は父が生涯受け取り、その後は母→長男の順に承継させる」といったルールを信託契約で決められます。
家族信託の三者関係イメージ
| 役割 | 誰がなるか | 主な権限・役割 |
|---|---|---|
| 委託者 | 財産の持ち主(親など) | 信託契約の設計・信託財産の拠出 |
| 受託者 | 信頼できる家族(子など) | 財産の管理・運用・処分の実行 |
| 受益者 | 利益を受ける人(本人→子など) | 家賃収入や売却代金などの受取 |
相続税との関係:「節税効果はない」が前提
家族信託をしても、税務上は原則として「財産を持っているのは受益者」とみなされます。
委託者=受益者のままなら、信託財産は従来どおり委託者の相続財産として相続税の対象となり、「家族信託にしたから税金が減る」という直接的なメリットはありません。
最も大事なのは、「家族信託=節税スキーム」という誤解を捨て、「節税を含む相続対策を計画通りに行うための管理の器」として位置づけることです。
家族信託が相続税の生前対策を”支える”理由
相続税対策には、生前贈与・不動産の組み替え・生命保険・法人化など、長期にわたる継続的な施策が必要です。
しかし、途中で認知症になり銀行口座や不動産の売却が難しくなると、「やろうとしていた対策」が止まってしまい、結果として相続税負担や資産凍結リスクが高まります。
家族信託であれば、「認知症後も受託者が賃貸経営や売却、資産の組み替えなどを契約に基づいて続けられる」ため、相続税対策を含む資産管理を長期的に維持しやすくなります。
家族信託が相続税対策を支える仕組み
| 相続税対策 | 認知症後(家族信託なし) | 認知症後(家族信託あり) |
|---|---|---|
| 生前贈与の継続 | 原則不可能 | 信託契約の範囲内で可能 |
| 不動産の売却・組み替え | 成年後見の申立てが必要 | 受託者が契約に基づき実行可能 |
| 賃貸物件の管理・修繕 | 管理判断が困難に | 受託者が継続して対応可能 |
| アパート建築・建て替え | 原則不可能 | 受託者の判断で可能 |
| 生命保険の加入 | 判断能力がないと不可 | 事前に加入しておく必要あり |
相続税の生前対策|家族信託が向いている人は?特徴とチェックポイント
結論として、「家族信託が向いているかどうか」は、①認知症リスク、②不動産の有無、③相続人・承継ルートの複雑さ、という3つの軸で見ると判断しやすくなります。
家族信託が向いている人チェックリスト
以下に当てはまる項目が多いほど、家族信託の検討価値があります。
認知症リスクに関するチェック
- 親が80代以上で物忘れが増えている
- 介護や施設入所の可能性が現実的に見えてきた
- 成年後見制度を使うと柔軟な資産運用が難しくなりそう
- 親が元気なうちに資産管理の仕組みを整えておきたい
資産内容に関するチェック
- 自宅以外に賃貸アパートや駐車場を所有している
- 事業用不動産や店舗を持っている
- 自社株を後継者に承継したい
- 不動産の売却や組み替えを検討している
家族構成・承継に関するチェック
- 二次相続・三次相続まで財産の行き先を決めておきたい
- 再婚しており、前妻・後妻の子どもがいる
- 障がいのある子どもに財産を残したい
- 相続人同士の関係が複雑で将来の争いが心配
認知症リスクや資産凍結を強く心配している人
一言で言うと、「将来、親が判断できなくなったときに、口座や不動産が動かせなくなること」を心配している方は、典型的に家族信託が向いています。
- 親が80代以上で物忘れが増えている。
- 介護や施設入所の可能性が現実的に見えてきた。
- 成年後見制度を使うと柔軟な資産運用が難しくなりそうだと感じている。
こうした状況では、家族信託で「誰がどの範囲まで資産管理を行えるか」を明確にしておくことで、介護費用や相続税対策のための売却・賃貸・組み替えをスムーズに行えるようになります。
不動産・賃貸物件・自社株など”動かしづらい資産”を持つ人
不動産や非上場株式は、売却や賃貸、名義変更に法的な手続きが必要であり、本人の判断能力低下がそのまま「資産凍結」につながりやすい資産です。
- 自宅+賃貸アパートを持っている。
- 事業用不動産や駐車場収入がある。
- 自社株を後継者に承継したい。
このようなケースでは、家族信託で受託者に不動産や株式の管理権限を託しておくことで、賃料徴収・修繕・建替え・売却などを柔軟に行えるため、結果として相続税評価のコントロールや納税資金の確保にもつなげやすくなります。
二次相続・三次相続まで承継ルートを決めておきたい人
家族信託が遺言より優れている点の一つは、「一次相続だけでなく、その先の世代まで承継順序を決められる」ことです。
- 「まず妻に、妻の後は長男、その後は孫へ」といった多段階の承継を指定したい。
- 再婚家庭・前妻の子がいるなど、家族関係が複雑で将来の争いが心配。
- 特定の子に事業や不動産を継がせたいが、他の子にも一定の利益を配慮したい。
こうした場合、家族信託を使うと「誰が・いつ・どの財産からどれくらい利益を受けるか」を契約で細かく決められ、相続税の負担と生活の安定を両立しやすくなります。
家族信託が向いていない人・不要なケース
家族信託は万能ではありません。以下のようなケースでは、費用・手間に比べてメリットが小さい場合があります。
家族信託が不要な可能性が高いケース
| ケース | 理由 | 代替手段 |
|---|---|---|
| 資産が預貯金のみで少額 | 信託の費用対効果が低い | 遺言書で十分 |
| 本人が若く認知症リスクが低い | 当面は本人が管理できる | 将来の検討課題 |
| 相続人が1人だけ | 承継ルールの複雑さがない | 遺言書で十分 |
| 家族関係がシンプルで争いの心配がない | 家族信託のメリットが限定的 | 遺言書+生前贈与 |
| 受託者に適した人材がいない | 信託が機能しないリスク | 成年後見制度の検討 |
家族信託・遺言・生前贈与の比較表
| 項目 | 家族信託 | 遺言 | 生前贈与 |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 資産管理・承継設計 | 死後の財産分配指定 | 生前の財産移転・節税 |
| 効力発生時期 | 契約締結時(生前から) | 死亡後 | 贈与契約時 |
| 認知症後の資産管理 | 可能 | 不可 | 不可 |
| 二次相続以降の指定 | 可能 | 不可 | 不可 |
| 節税効果 | なし(間接的に支援) | なし | あり(課税財産を減らす) |
| 費用 | 高め(30〜100万円程度) | 低め(数万円〜) | 低め(贈与税がかかる場合あり) |
| 手続きの複雑さ | 複雑 | 比較的シンプル | シンプル |
選び方の判断フローチャート
【家族信託が必要か判断するフロー】
Q1. 認知症リスクが現実的に心配ですか?
├─ YES → Q2へ
└─ NO → 遺言書+生前贈与で検討
Q2. 不動産や自社株など「動かしづらい資産」がありますか?
├─ YES → Q3へ
└─ NO → 遺言書+生前贈与で検討
Q3. 二次相続以降まで承継ルールを決めたいですか?
├─ YES → 家族信託を積極的に検討
└─ NO → Q4へ
Q4. 信頼できる受託者候補がいますか?
├─ YES → 家族信託を検討
└─ NO → 成年後見制度も含めて検討
家族信託の費用目安
| 項目 | 費用目安 |
|---|---|
| 信託契約書作成(専門家報酬) | 30万円〜100万円程度 |
| 公正証書作成費用 | 3万円〜10万円程度 |
| 不動産の信託登記(登録免許税) | 固定資産税評価額の0.3〜0.4% |
| 信託登記の司法書士報酬 | 5万円〜15万円程度 |
※財産の内容や複雑さによって大きく変動します。
よくある質問
Q1. 家族信託は相続税の節税対策として向いていますか?
A. 直接の節税効果はなく、認知症後も生前対策や資産管理を継続するための仕組みとして向いています。
Q2. どんな人に家族信託が特に向いていますか?
A. 認知症リスクが高い高齢者、不動産や賃貸物件を複数持つ人、二次相続まで承継ルートを指定したい人などです。
Q3. 預貯金が少なく不動産もない場合、家族信託は必要ですか?
A. 資産規模が小さい場合は、家族信託より遺言書や生前贈与などのシンプルな手段で十分なことが多いです。
Q4. 家族信託と生前贈与はどちらを選ぶべきですか?
A. 生前贈与は課税財産を減らす節税策、家族信託は管理と承継ルールの仕組みであり、目的が違うため併用してバランスを取るのが一般的です。
Q5. 家族信託をすると贈与税や相続税は増えませんか?
A. 適切に設計された家族信託では、委託者=受益者の間は課税関係は従来とほぼ同じで、不要な贈与税が発生しないように配慮されます。
Q6. 家族信託の安全性で特に注意すべき点は何ですか?
A. 受託者の選び方、権限の範囲、信託財産の対象・除外、税務処理の前提を契約書に反映させ、後から解約・変更しづらい点を理解することです。
Q7. 家族信託が不要なケースはありますか?
A. 預貯金だけで完結する家庭、資産が少ない家庭、本人が若く認知症リスクが低い場合などは、費用・手間に比べてメリットが小さいとされています。
まとめ
- 家族信託は、相続税額を直接下げる制度ではなく、認知症や家族構成の変化があっても生前対策と資産管理を続けられる「仕組み」として、相続税の生前対策を支える役割を持ちます。
- 向いているのは、認知症リスクが現実的な方、不動産・自社株など動かしづらい資産を持つ方、二次相続以降まで承継ルールを決めておきたい方などであり、資産規模が小さい方には不要なケースもあります。
- 結論として、相続税の生前対策として家族信託を検討する際は、節税目的だけで飛びつくのではなく、認知症・資産凍結・家族関係まで含めた総合的な課題を整理したうえで、専門家と一緒に必要性と設計方針を判断すべき対策です。
家族信託を検討する前の3ステップ
- 現状把握:財産の種類・家族構成・認知症リスクを整理する
- 比較検討:遺言・生前贈与・成年後見など他の手段と比較する
- 専門家への相談:信託・相続に詳しい専門家に相談し、必要性と設計方針を判断する









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