目次
相続税の税率と効果的な節税方法について
相続税の金額は相続した財産の価値によって決められますが、国税庁が公表している速算表通りの税率では計算されません。
それは、相続した財産から控除や按分を行なった金額に対して、税率が乗じられるからです。
相続税の節税対策としては生前贈与が一般的ですが、効果的な節税を行なうためには、限界税率と実効税率について知り、正しい判断をしなければなりません。
相続税の税率について
相続税の税率は相続した財産の価値によって決まり、財産の価値が高くなればなるほど、相続税の税率も上がっていきます。
税率と控除額は下記のとおりですが、他の税金と比較して、率が高く設定されていることが特徴です。
【平成27年1月1日以後の場合】相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額
税率
控除額
1,000万円以下
10%
-
3,000万円以下
15%
50万円
5,000万円以下
20%
200万円
1億円以下
30%
700万円
2億円以下
40%
1,700万円
3億円以下
45%
2,700万円
6億円以下
50%
4,200万円
6億円超
55%
7,200万円
相続税は相続した財産の価値によって、最大55%まで課されることになりますが、財産の価値に55%も乗じた税金を納めるのであれば、とても高額な税金となってしまう印象があります。
しかし、実際に納めなければならない税金は、この速算表ほど高額にはなりません。
その理由は、相続税の計算方法は、財産の取得金額に対して、単純に税率を乗じるわけではないからです。
相続税の計算方法
1.遺産の総額を求める
相続税を計算するための第一段階は、相続する遺産の総額を求めるところからです。
不動産や預金など、財産となるものの金額を足していき、算出された金額から借金などの負債分を引いていきます。
ただし、不動産などには「小規模宅地等の特例」など、減税措置が設けられている場合があるため、減税される分についても考慮しなければなりません。
2.基礎控除額を差し引く
財産と負債分から遺産の総額が算出されたら、次は遺産総額から基礎控除額を差し引きます。
遺産総額から基礎控除額を差し引く計算式は次のとおりです。
課税価格の合計額 - 基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)
= 課税遺産総額
つまり、法定相続人が2人いる場合は、「3,000万円+600万円×2」という計算式で算出され、遺産総額から4,200万円が控除されることになります。
遺産総額よりも基礎控除額のほうが高額である場合、相続税は非課税です。
3.相続できる割合を求める
遺産総額から基礎控除額を差し引いて、課税額が残っている場合、次に、法定相続人の人数に応じて相続分を按分します。
按分とは、法定相続人の関係性と人数に応じて、相続する遺産の割合を決めることです。
按分の仕方は被相続人の兄弟や子どもの有無、子どもの数などによって異なるため、相続人の家族構成に応じて遺産の割合を決めます。
例えば、被相続人に配偶者がいて、子どもが2人いた場合には、配偶者に対して1/2、子どもにそれぞれ1/4ずつの遺産が相続される仕組みです。
4.税率を乗じる
相続できる割合を求めたら、法定相続人がそれぞれ相続できる財産分に対して、最初にご紹介した税率を乗じます。
例として、1億円の遺産を配偶者と子ども2人の3人で按分する場合の計算をしてみましょう。
1億円(相続財産総額)-4,800万円(基礎控除額)=5,200万円
【配偶者】
2,600万円(1/2)×15%(税率)-50万円(控除額)=340万円
【子供】
1,300万円(1/4)×15%(税率)-50万円(控除額)=145万円
1億円の遺産を相続したとしても、控除や按分によって税金を課される金額は小さくなるため、実際に適用される税率は15%となります。
結果的に、配偶者には340万円、子ども2人にはそれぞれ145万円の相続税になると算出されます。
5.税額控除を差し引く
最後に、条件を満たした場合に適用される「税額控除」を差し引かなければ、支払わなくても良い税金を支払うことになってしまいます。
税額控除にはさまざまな条件が設定されていますが、「配偶者の税額の軽減」「未成年者の税額控除」「障害者の税額控除」などが存在し、「配偶者の税額の軽減」を利用すれば、相続した遺産の合計が1億6,000万円に満たない場合は、相続税は課されません。
また、「未成年者の税額控除」では、満20歳になるまでの年数1年につき、10万円を乗じた金額が控除されるため、子どもが10歳だった場合は「10年×10万円=100万円」が控除額です。
つまり、上記の例で説明をすると、配偶者に課されるべき340万円の相続税は0円となり、子ども2人が未成年であった場合は、成人するまでの年数に応じて更に税額が控除されるということです。
相続税の節税方法とは?
一般的な相続対策である「贈与」
相続税の節税方法として一般的に行われているのは、贈与税を適用させるための生前贈与です。
ただし、2つの税金の税率をよく比較して行なわなければ、生前贈与をしたほうが税金が高額になってしまうこともあります。
贈与税の基礎控除額は相続の時よりも低く設定されており、税率は相続税よりも高いからです。
また、節税対策の方法として、相続する財産を毎年複数回に分けて贈与するという方法もあります。
しかし、複数回に分けて贈与を行なった場合、節税対策のための定期贈与とみなされて、1年間で全ての贈与を行なった場合の贈与税が課せられる可能性もあるため注意してください。
複数回に分けた贈与を行なわない場合でも、状況によっては相続よりも贈与にしたほうが節税効果が現れますが、効果的に節税を行なうためには、「限界税率」と「実効税率」の違いについて知る必要があります。
限界税率と実効税率について
相続税には「限界税率」と「実効税率」という2つの税率が存在しています。
最初にご紹介した国税庁の表に記されているのが限界税率で、実効税率とは、相続する遺産の金額に対して、支払うべき相続税の割合のことです。
実効税率の計算は税額控除を差し引く前の税額で計算するため、先にご紹介した家族の例で説明すると次のようになります。
【配偶者】
340万円(税額)÷2,600万円(相続分)=13.07%
【子ども】
145万円(税額)÷1,300万円(相続分)=11.15%
上記のように、実際に支払うべき税金の割合を示すものが実効税率であり、実効税率こそが節税対策の要となる数値です。
実効税率と節税の関係性
相続と贈与のどちらを選ぶか考える場合、相続税の実効税率と、贈与税の実効税率のどちらが低くなるかを比較して選びます。
限界税率を使って比較をしてしまうと、効果的な節税が行なえなくなる可能性があるため注意が必要です。
相続税の実効税率は、ご紹介してきた計算式で求めることができますが、贈与税の実効税率は贈与する対象と贈与金額によって異なり、次のようになります。
贈与金額 |
実効税率 |
|
---|---|---|
子ども・孫への贈与 |
左記以外の贈与 |
|
110万円 |
0.0% |
0.0% |
200万円 |
4.5% |
4.5% |
300万円 |
6.3% |
6.3% |
400万円 |
8.4% |
8.4% |
500万円 |
9.7% |
10.6% |
600万円 |
11.3% |
13.7% |
700万円 |
12.6% |
16.0% |
800万円 |
14.6% |
18.9% |
900万円 |
16.3% |
21.2% |
1,000万円 |
17.7% |
23.1% |
1,500万円 |
24.4% |
30.0% |
2,000万円 |
29.3% |
34.8% |
2,500万円 |
32.4% |
37.8% |
3,000万円 |
34.5% |
39.8% |
4,000万円 |
38.3% |
43.5% |
5,000万円 |
41.0% |
45.8% |
6,000万円 |
43.3% |
47.3% |
7,000万円 |
45.0% |
48.4% |
8,000万円 |
46.2% |
49.2% |
9,000万円 |
47.2% |
49.9% |
1億円 |
48.0% |
50.4% |
1億5,000万円 |
50.3% |
51.9% |
生前贈与で効果的に節税する方法
贈与は相続よりも実効税率が高く設定されていますが、贈与金額が少額であった場合、多額の相続を行なう場合よりも、課せられる税金は少なくなります。
そのため、相続税の実効税率以下になる生前贈与を行なっておけば、相続時の節税が可能です。
先に計算式で求めたご家族の相続の例で見てみましょう。
法定相続人である配偶者と子どもの相続税実効税率は、次のようになっていました。
【配偶者】
340万円(税額)÷2,600万円(相続分)=13.07%
【子ども】
145万円(税額)÷1,300万円(相続分)=11.15%
全額を贈与することは現実的ではなく、その上、贈与税が高額になってしまいます。
そこで、配偶者の場合、贈与税が13.07%以下となる生前贈与を行い、子どもの場合、贈与税が11.15%以下となる生前贈与を行なっておけば、相続の際の節税に効果的です。
配偶者と子ども2人に対して、それぞれ500万円ずつの生前贈与を行なった場合、配偶者の贈与税と相続税の金額は次のようになります。
【生前贈与をしない場合】
・相続で得る財産:2,600万円
・相続税額:340万円
【500万円の生前贈与をした場合】
・生前贈与で得る財産:500万円
・贈与税額:53万円
・相続で得る財産:2,100万円
・相続税額:265万円
・総税額:318万円
上記の計算式で求められるように、生前贈与をしない場合には340万円が支払うべき税額でしたが、生前贈与をした場合は318万円が総税額となり、生前贈与を行なったほうが節税ができます。
ただし、税額控除についても考慮する必要があるため、どのような方法で節税するべきかは、その状況に応じて変わる可能性があります。
相続税の節税をするなら専門家に相談を
相続税は税率によって算出されますが、相続する財産に対してさまざまな控除や按分が適用されるため、国税庁が公表している速算表通りの計算にはなりません。
最も一般的な節税対策として、生前贈与が行われることがありますが、効果的な節税効果を得るためには、「限界税率」と「実効税率」について知り、正しい計算方法で税額を算出する必要があります。
生前贈与を行なったほうが節税できる可能性もありますが、選ぶべき方法は相続の状況によっても変わるため、専門家に相談するのが最善の策です。