相続登記は自分で行えますが、手続きのための流れや必要書類、申請方法について事前に知っておく必要があります。
相続登記の際には費用も発生するため、かかる費用の概算も知っておくべきです。
登記が発生する相続の状況には3種類あり、必要な書類が変化する場合もあるため、不動産を含む相続が始まったら登記に関する基礎知識をつけておくことをおすすめします。
目次
相続登記は自分で行うことが可能
相続登記には知識が必要ですが、専門家に頼らず自分で行うことは可能です。
登記申請書の作成や必要書類の収集に時間がかかる可能性もありますが、手続きの流れは比較的シンプルで、やり方さえ覚えれば自分でもできるでしょう。
ただし必要書類の多さから取得に時間がかかり、慣れていない方にとっては申請書の作成も難解です。
不動産を相続することが決まってから準備を始めるのでは遅く、不動産を含む相続が開始された時点から事前に準備しておくとスムーズでしょう。
現在は相続登記が義務化されていないため、相続した不動産の登記を行っていないという方もいるでしょうが、法務省では不動産を相続した際の登記を将来的に義務化するという方針を発表しています[1]。
土地と建物の両方で義務化される予定であり、相続登記を自分で行う方法を知っておくと役立ちます。
義務化された場合、不動産の相続から登記までの期限も定められる可能性があります。
相続登記は主に3種類に分けられる
相続登記が発生する状況には種類があり、遺産分割による登記、遺言書の内容による登記、法定相続による登記の3つがあります。
相続登記の種類は登記申請書の書式の種類に関わってくるため重要です。
それではそれぞれについて詳しく解説します。
遺産分割による相続登記
複数の相続人が遺産分割協議を行い、話し合いによって不動産の相続人を決めた場合や、1人しか相続人が存在しない場合が該当します。
遺産分割協議で最も問題となるのは、相続人同士に意見の食い違いが起こり、不動産の相続人が決まらないことです。
不動産を相続したい人が複数いる場合、相続した不動産を複数の相続人で共有することもできますが、共有不動産の場合は売却や賃貸化など不動産に関わる手続きを行うときに、必ず共有している全員の同意が必要となります。
そのため複数人の内の1人が相続するとしても、複数人で共有するとしても、相続人同士の争いに発展しやすい点が問題です。
複数人での共有は遺産分割協議で揉めた際の解決策にも感じられますが、次の相続のときにさらに揉める可能性があるためおすすめしません。
相続人が1人しかいない場合はスムーズに相続登記を行えます。
遺言書に従う相続登記
被相続人が遺言書を作成していた場合、遺言書の内容に従って相続が行われます。
遺言書の内容通りに相続が行われるのであれば、前述の遺産分割協議は必要ありません。
ただし遺言書の内容は100%実行されるわけではなく、相続人全員が「遺言書の内容に従わない」という意志を示した場合は実行されません。
遺言書に従わない相続を行うのであれば、通常通りに遺産分割協議が行われます。
遺言書通りに相続を行うときは、法務局に遺言書を持参すれば登記手続きも代行してもらえます。
法定相続による相続登記
法定相続による登記とは、民法で定められた法定相続分に従って不動産を共有する方法です。
例えば遺産分割協議を行って意見の食い違いが起きている場合や、遺産分割協議書を作成する手間を省きたい場合に採用されます。
法定相続人の内1人が申請を行えば完了し、全員が手続きを行う必要はありません。
しかし「遺産分割協議による相続登記」の項目でも解説したように、不動産を共有すると将来的に揉める可能性が高まります。
賃貸や売却で不動産を活用したいと考えても、共有者全員の同意が得られなければ活用できません。
もし相続人全員が「すぐに不動産を売却して現金化したい」という意思を示しているのなら、法定相続による登記を行ってから売却しても良いでしょう。
相続登記の大まかな流れ
相続登記を自分で行うときの大まかな流れは次の通りで複雑ではありません。
STEP1:登記事項証明書の取得
STEP2:不動産の確認・調査
STEP3:相続人の調査・遺産分割協議
STEP4:必要書類の準備
STEP5:登記申請書の作成
STEP6:登記申請
STEP1:登記事項証明書の取得
登記事項証明書は相続と早期申請の様々な場面で必要になり、STEP2と不動産情報の確認とSTEP5の登記申請書の作成で活用されます。
もし自宅に保管されていれば、新たに取得し直す必要はありません。
STEP2:不動産の確認・調査
まずは相続の対象となる不動産の基本情報を確認します。
被相続人のものであると思い込まれていた不動産が、実は他の人物の所有物件であったという可能性も存在するからです。
登記は登記名義人の方について行わなければなりませんので,例えば,亡くなられた方の御両親が登記名義人になっている場合は,まずその御両親からの相続登記を行う必要があります。
このように何世代も相続登記をしていない場合(数次相続の場合)は,相続人も増え,多くの書類が必要となりますので,…中略…
法務局の公式サイトでも注意が促されているように、「確認してみたら被相続人の名義ではなかった」という事例は実際にあります。
登記申請の流れも変わってくるため、相続開始時点で確認しておきましょう。
STEP3:相続人の調査・遺産分割協議
不動産の情報が明確になったら、法定相続人全てを特定するための調査を行いましょう。
親や子でも把握できていない法定相続人が存在する場合があります。
全ての法定相続人が判明したら、遺産分割協議などによって不動産を相続する相続人を決めてください。
STEP4:必要書類の準備
STEP4からが相続登記申請を行うための流れです。
必要書類の収集は各市区町村役場などで行えますが、場合によっては最も時間と手間のかかる段階となります。
収集するべき書類の種類は非常に多く、遠方の役場に請求しなければならないケースもあるためです。
必要書類については次の項目で詳しく解説します。
STEP5:登記申請書の作成
必要書類の収集が終わったら、登記事項証明書の情報を基にして登記申請書を作成しましょう。
登記申請書に記入する内容は多くありませんが、相続登記を自分で行うときに最も難しく大変だと感じられる段階です。
ただし登記申請書の作成が終われば、他に難しい手続きは存在しません。
書式は法務局の公式サイトからダウンロードでき、記載例に従って登記事項証明書の内容を自分で記入していきます。
最初に解説した相続の種類ごとに書式が分けられており、遺産分割協議を行った場合、遺言書がある場合、法定相続分で登記をする場合でそれぞれに異なります。
該当する書式を使用することはもちろん、不動産の情報を正確に記載すること、相続関係説明図などを間違えないように記入していきましょう。
STEP6:登記申請
必要書類と登記申請書の作成が完了したら、法務局で登記申請を行って手続きが完了します。
申請方法は法務局窓口、郵送、オンラインの3種類が用意されていますが、申請方法については最後に詳しく解説します。
相続登記の手続きに必要な書類
・登記事項証明書
・登記申請書
・被相続人の住民票除票
・被相続人の戸籍謄本一式
・相続人の戸籍謄本(全員分)
・遺産分割協議書・遺言書
・相続人の印鑑証明書(全員分)
・相続人の住民票(物件取得者)
・固定資産評価証明書
・相続人からの委任状
相続の状況や登記の種類によって変化しますが、必要になる可能性のある書類は全部で10種類です。
それぞれの書類の概要や取得方法などを解説します。
登記事項証明書
厳密には相続登記に必要な書類ではありませんが、遺産分割協議書や登記申請書の作成、不動産情報の確認に使われます。
対象の不動産がある地域以外の法務局でも取得可能で、発行してもらうには土地の場合は地番、建物の場合は家屋番号の情報が必要です。
不動産の基本的な情報は、権利証や固定資産税納税通知書に記載されていますが、もし手元に書類がなければ、法務局に出向いて住所から検索することもできます。
類似の書類として「登記簿謄本」がありますが、登記事項証明書と登記簿謄本は記載内容が同じであるためどちらでも構いません。
登記申請書
法務局に提出するための申請書で、不動産の名義変更を申請するための書類です。
不動産を相続する相続人が書式を用意して作成します。
被相続人の住民票除票
被相続人の住民票除票は、最後に住んでいた住所を管轄する市区町村役場で取得できます。
必ず本籍が記載されている必要があります。
住民票の除票は被相続人を特定するために必要です。
本人の氏名と最後に居住していた住所、本籍地によって被相続人が誰かを特定します。
被相続人の戸籍謄本一式
被相続人が生まれてから亡くなるまでの全ての本籍が確認できる戸籍謄本が必要です。
戸籍謄本一式は、住民票の除票によって特定された被相続人を、確定するために必要となります。
本籍が一回も変わっていないのであれば一通の戸籍謄本を取得するだけですが、過去に本籍の移転が行われていた場合は、本籍が存在した市区町村役場で除籍謄本や改製原戸籍謄本を取得してください。
注意点として、発行された戸籍謄本がコンピュータ化していた場合は、コンピュータ化以前の改製原戸籍謄本も必要になります。
過去の本籍地が居住地から遠い場合は、申請書の郵送で取得が可能です。
しかし本籍の移転が複数回あれば大変な作業となり、一通一通を郵送によって自分で請求することも時間がかかるため、専門家に一任しても良いでしょう。
相続人の戸籍謄本(全員分)
相続人全員分の戸籍謄本は、対象の人物が確実に法定相続人であることと、生存していることを確認するために使われます。
相続人本人の本籍を管轄している市区町村役場で取得が可能です。
被相続人とは異なり、現在の本籍が記載されている戸籍謄本のみで構いません。
遺産分割協議書・遺言書
遺産分割協議を行った場合は遺産分割協議書、遺言書がある場合は遺言書を用意しましょう。
遺産分割協議の結果や遺言書の内容を確認するために利用されます。
遺産分割協議書は遺産分割協議が行われたときに相続人が作成し、相続人全員が実印で押印します。
ただし相続人が1人のみである場合と、法定相続分による登記である場合、遺言書の内容に従って相続が行われた場合は、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
相続人の印鑑証明書(全員分)
印鑑証明書は遺産分割協議書に実印を押印するため必要となる書類です。
実印が確実に対象の人物のものであると証明するために必要であり、相続人本人がそれぞれ取得します。
こちらも法定相続による登記の場合と、相続人が1人しか存在しない場合は不要です。
相続人の住民票(物件取得者)
住民票は対象の不動産を相続する人だけ必要な書類です。
不動産の保有者になるということは登記事項証明書に氏名と住所が掲載されるということであるため、保有者の現在の住所を特定するために利用されます。
通常通り市区町村役場で取得してください。
固定資産評価証明書
不動産がある土地を管轄している市区町村役場か、東京23区内に存在する不動産であれば都税事務所で取得できます。
固定資産評価証明書は、登記の際に課せられる「登録免許税」を計算するために利用される書類です。
最も新しい年度のものを用意するように気をつけてください。
相続人からの委任状
不動産登記を自分で行わず、司法書士や税理士に委任する際に必要です。
不動産を相続する人が作成し、専門家に登記手続きの全てを委任するという意思を表明します。
自分で手続きを行う場合は必要ありません。
相続登記の手続きにかかる費用
最初に相続登記手続きにかかる総額を確認してから内訳について解説します。
・1億円の不動産の場合:約51万円
・5,000万円の不動産の場合:約31万円
・3,000万円の不動産の場合:約23万円
・2,000万円の不動産の場合:約19万円
費用は不動産の評価額によって変わるため一概に言えませんが、おおよその目安として参考になるでしょう。
また上記の金額には専門家への報酬も含まれているので、自分で相続登記を行う場合は10万円差し引いた金額で考えてください。
登録免許税
「固定資産評価証明書」の項目で解説したように、登記の際には土地と建物の両方に登録免許税という税金が課せられます。
納税額は固定資産税評価額に税率を乗じて計算するため、目安を提示するのは難しいですが、評価額が2,000万円の場合は8万円、5,000万円の場合は20万円です。
計算式は次の通りで、固定資産税評価額に端数がある場合は1,000円未満を切り捨て、評価額が1,000円未満の場合は1,000円とされます。
固定資産税評価額 × 0.4% = 登録免許税額
上記の計算式で算出された金額に端数がある場合は、100円未満を切り捨て、1,000円未満の場合は1,000円となります。
なお、税率0.4%は令和3年3月31日までであり、令和3年4月1日からは0.5%に引き上げられる予定です[2]。
登録免許税額分の収入印紙を購入して、登記申請書に貼付すれば納税が完了します。
また令和3年3月31日まで次のような2つの免税措置が実施されるため、適用可能か確認しておきましょう。
【少額の土地の免税措置】
評価額が10万円以下であり、法務大臣の告示によって定められた土地の場合は免税対象となります。
「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」によって施行された措置です。
法務大臣の告示によって決定されるため、相続する土地が対象になるかは不明ですが、対象になれば相続の負担軽減につながります。
【相続前に死亡した場合の免税措置】
不動産を相続して登記申請を行った後、移転の登記を受ける前に死亡した場合、該当する登記申請に登録免許税が課せられないという措置です。
移転登記が完了する前に死亡した人物から不動産の二次相続を受ける場合は、免税措置の対象になりません。
必要書類の取得費用
戸籍謄本や住民票を取得するためにかかる手数料や、移動のための交通費が該当します。
被相続人の本籍が複数回移転している場合、戸籍謄本を請求する際の郵送代なども含まれます。
各市区町村役場によって手数料の金額は異なりますが、約10,000円と見積もれば良いでしょう。
専門家への報酬
相続登記を自分で行う場合は不要ですが、司法書士や税理士などの専門家に登記を依頼する場合は報酬を支払わなければなりません。
報酬は事務所によって異なりますが、約10万円となることが多いでしょう。
相続の無料相談を行っている場合も多いため、相続登記を自分で行う予定であっても、まずは相談してみることをおすすめします。
相続登記の手続き方法
相続登記をするための手続方法は、法務局窓口への持ち込み、郵送での提出、オンライン申請の3種類が用意されています。
申請方法にはそれぞれメリットとデメリットがあるため、自分で行うならどの方法が適切か判断するための参考としてください。
法務局で申請する方法
一般的には法務局まで出向いて、窓口に必要書類を提出する方法が採用されます。
登記申請を受け付けている窓口は、法務局内「不動産登記係」という窓口です。
自分で相続登記を行う場合は必要書類の添付漏れや記載ミスの可能性がありますが、法務局の窓口で対応してもらえばその場で誤りを訂正することも可能です。
ただし開庁時間に行かなければいけないことと、時間を作って出向かなければいけないという点がデメリットになります。
さらに登記手続き完了には申請書を提出してから1週間程度を要するため、登記完了予定日にもう一度法務局に行かなければならず、忙しい方にとっては少々面倒だと感じられるでしょう。
登記完了予定日は書類提出時に教えてもらえるため、該当の日程になったら法務局に行きます。
出向く際には、身分証明書と申請のときに使った印鑑を持参してください。
手続きが全て終わったら、「登記識別情報通知書」「登記完了証」という2通の書類が発行され、戸籍謄本等の原本を返却してもらえます。
郵送で申請する方法
提出書類一式を法務局に郵送する方法も利用できます。
郵送で申請する場合は必ず普通郵便ではなく、記録が残る書留郵便で送るようにしましょう。
自分で出向く時間が取れない方でも利用しやすく、法務局から遠方に住んでいるという方にも最適です。
ただし窓口で確認してもらうことができないため、提出書類に誤りや不足があった場合、後々訂正しなければならなくなる可能性もあります。
訂正の可能性も考えて、申請書に相続人全員の捨印を押しておくようにしてください。
郵送の場合、登記完了予定日は法務局の公式サイトに掲載されるので、自宅で簡単に確認できます。
もし確認の仕方がわからないようであれば、書類を郵送した日から2週間を目安として法務局の窓口に行けば完了しているでしょう。
完了書類の受け取りにも行けない場合は、書類を郵送してもらう方法もあります。
登記申請書の「その他の事項」として、登記識別情報通知書、登記完了証、原本還付書類の返還を郵送で希望する旨を記載し、続けて送付先の住所を記載してください。
そして申請書を郵送するときに、切手を貼付した返信用封筒を同封すれば郵送で受け取れます。
インターネットで申請する方法
法務局の「登記・供託オンライン申請システム」を利用して、オンライン申請も行えます。
インターネットを使えば時間や場所を問わず申請でき、窓口や郵送よりも手数料が安くなる可能性があります。
ただし利用するための準備が必要で、電子証明書の取得や「登記・供託オンライン申請システム」への申請者情報登録をしなければいけません。
パソコンに詳しくない方であれば、書類を郵送したほうが早く手続きを完了させられるでしょう。
「登記・供託オンライン申請システム」の公式サイトには、申請のときに利用する申請用総合ソフトの利用方法やオンライン申請についての動画もあり、オンライン登記申請の体験版も用意されているので、興味のある方はご覧になってください。
相続登記は自分で行えるがまずは専門家に相談を
相続登記を自分で行うことはできますが、登記申請書の書式や必要書類の収集など、初めての方にとっては難しく感じられる部分もあります。
自分で行えば専門家に支払う報酬を節約できる反面、時間や手間がかかることは必至です。
また登記が発生する相続の状況によっては、将来的に相続人同士の争いに発展する可能性も孕んでおり、相続に詳しい専門家に相談したほうがスムーズだと考えられます。
正式な依頼を決めていない場合でも無料相談が用意されているので、自分で手続きを行う予定なら、まずは相続の専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
[1]
参照:内閣官房:(PDF)所有者不明土地問題についての法務省の検討状況
[2]
参照:法務局:(PDF)○登録免許税はどのように計算するのですか?
[3]