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相続税の配偶者控除について
相続税の配偶者控除とは、配偶者が相続した財産から、1億6,000万円、もしくは法定相続分相当の金額のどちらか高いほうが控除されるという制度で、被相続人の死亡時に、法律上の婚姻関係にあった配偶者に適用されます。
非常に節税効果の高い控除ですが、二次相続を考慮しなければ遺産分割を行なう必要があるなど、身長差が求められるため、注意点をよく把握して適用させましょう。
相続税の「配偶者控除」とは一体?
配偶者控除について
相続税の配偶者控除とは、正式には「配偶者の税額軽減制度」と呼ばれており、被相続人の配偶者が財産を相続した場合、相続税が大幅に軽減されるという控除です。
控除額は大きく、次の金額のどちらか高額な方を採用し、適用された金額分の相続財産が非課税になります。
・1億6,000万円までの財産
・配偶者の法定相続分の相当額
配偶者が相続する財産が1億6,000万円以内であれば、相続税は課されません。
法定相続分とは、民法で定められた配偶者の相続財産の取り分のことで、被相続人の親族構成によって異なります。
例えば、被相続人に子どもや兄弟、父母が存在しない場合は、配偶者の法定相続分は100%となるため、1億6,000万円以上であっても、相続した財産は全て非課税です。
もし、被相続人に子ども1人が存在した場合、配偶者の法定相続分は50%となり、1億6,000万円か法定相続分の50%の金額か、どちらか高額なほうが非課税とされます。
どんな人が適用されるのか?
配偶者控除を利用するためには、被相続人が死亡したときに、法律上で婚姻関係を結んでいる配偶者でなければなりません。
そのため、被相続人の死亡前に離婚届を提出している場合や、法律上の婚姻関係を結んでいない内縁の妻は、控除適用外とされます。
離婚した配偶者や内縁の妻が、遺言書に従って財産を相続した場合でも、配偶者控除を使うことはできません。
反対に、別居中で婚姻関係にある配偶者や、離婚調停中の配偶者であっても、法律上の婚姻関係を結んでいる状態ならば、配偶者控除を適用させられます。
配偶者控除の計算方法
1.相続する財産の総額を算出する
まずは、被相続人が所持していた全ての財産を評価して、総額を算出します。
現金や預貯金、有価証券、自動車、不動産、権利などのプラスの財産を合計してから、借入金や未払金、ローンなどのマイナスの財産を差し引いた金額が総額です。
また、相続が開始される前の3年以内に贈与された財産や、死亡保険金、死亡退職金なども加えてください。
2.相続税の課税対象額を算出する
次に、相続する財産の総額から、基礎控除額と非課税財産を差し引き、相続税の課税対象となる金額を算出します。
基礎控除額は、「600万円 × 法定相続人の人数 +3,000万円」で計算されるため、法定相続人の人数を間違えないようにして気をつけてください。
非課税財産とは、死亡保険金などで、「500万円 × 法定相続人の人数」で算出されます。
法定相続人は被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本から割り出しますが、相続を放棄した人も、人数の中に含められます。
例えば、法定相続人が3人いた場合で考えてみましょう。
基礎控除額:600万円 × 3人 + 3,000万円 = 4,800万円
非課税財産:500万円 × 3人 = 1,500万円
合計:6,300万円
法定相続人が3人いた場合は、相続する財産の総額から、合計6,300万円を差し引くことができます。
もし、土地を相続した場合は、「小規模宅地等の特例」なども適用可能です。
基礎控除額等を差し引いて、課税対象の財産が残らなかった場合は、配偶者控除を適用させる必要はありません。
基礎控除額が財産の総額を上回った場合は、相続税は非課税になるためです。
3.相続人ごとの相続する財産の額を求める
法定相続人それぞれが相続する財産の金額を求めます。
各人が相続する財産の金額は、法定相続分と遺産分割協議の結果を考慮して決定されます。
財産分割についての遺言があれば、それに従って相続する割合と金額を求めてください。
4.配偶者控除を差し引く
配偶者が相続する財産の金額が判明したら、相続する財産の金額から、配偶者控除分を差し引いて相続税を算出します。
例として、5億円の財産を、非課税財産のない状態で、配偶者と子ども2人で相続する場合の相続税を計算してみましょう。
【課税対象の財産】
5億円-4,800万円(基礎控除額)=4億5,200万円
【法定相続分で按分した財産額】
配偶者(1/2):4億5,200万円×1/2(法定相続分)=2億2,600万円
子ども(1/4ずつ):4億5,200万円×1/4(法定相続分)=1億1,300万円
【相続人ごとの相続税額】
配偶者:2億2,600万円(相続する財産)-2億2,600万円(配偶者控除の法定総額分)=0円
子ども:1億1,300万円(相続する財産)×40%(相続税税率)-1,700万円(控除額)=2,820万円
相続税額は上記のように計算され、子どもは1人2,802万円の相続税が課せられますが、配偶者控除を適用した配偶者の相続分は、相続税が0円となります。
配偶者控除の注意点
相続税の申告を行なうこと
配偶者控除を適用させるためには、必ず相続税の申告を行なって、税務署から適用を受けてください。
例え、配偶者控除を適用させた計算で、相続税が0円になったとしても、申告しなければ申告漏れを指摘されます。
基礎控除額を差し引いて相続税が0円になった場合には、申告を行なう必要がないため、配偶者控除と混同しないようにしてください。
必要書類を揃えておくこと
控除を受けるためには税務署に申告が必要なので、申告のための必要書類を揃えておきましょう。
必要な書類は次のとおりです。
・相続税申告書
・戸籍謄本
・遺言書か遺産分割協議書の写し
・印鑑証明書(遺言書を提出する場合不要)
遺言書か遺産分割協議書の写しは、配偶者が相続する財産を確認できなければいけません。
申告期限を過ぎると、別途手続きを行なわなければならなくなるため、必要書類はあらかじめ用意しておくようにしてください。
財産を隠蔽しないこと
財産を隠蔽した場合は、配偶者控除を適用させられなくなります。
もし、配偶者控除を受けた後の税務調査で、財産を隠蔽していたことが判明したら、修正申告を行なわなければなりません。
元から配偶者控除が適用されていた財産に、相続税が課税されることはありませんが、隠蔽されていた財産は配偶者控除の適用対象外となり、35%か40%の重加算税のペナルティが課せられます。
本来よりも高額な税金を支払わなければならなくなるため、申告漏れに気をつけてください。
税務調査で相続税の追徴課税が行われる確率は非常に高いと言われますが、意図した隠蔽だけが原因ではなく、相続人も把握していない財産が存在している可能性があることも理由の一つです。
二次相続を考慮すること
配偶者控除を利用すれば大幅な節税ができますが、二次相続のときの相続税額を計算しておくことも大切です。
二次相続とは、特定の相続人が2回目の相続を受けることで、夫婦2人が財産を所有したまま亡くなり、子どもが2回相続を受ける場合などに発生します。
夫のほうが先に亡くなり、配偶者控除を利用して、妻が全ての財産を相続していたとすると、1回目の相続では大幅な節税が可能です。
しかし、妻が亡くなったときの2回目の相続では、子どもが財産を相続することになるため、配偶者控除は適用されず、妻という法定相続人が1人減っているため、1回目の相続と比較して基礎控除額も減ります。
さらに、妻が夫から相続した財産以外の固有財産を所有していた場合、2回目の相続のほうが財産額が大きくなっていることも考えられます。
そのため、子どもの相続税の負担が大きくなる可能性が高くなることに注意しましょう。
配偶者控除を利用して節税をする場合には、二次相続のことも考慮して、一次相続と二次相続で発生する相続税の総額を計算するようにしてください。
遺産分割協議を完了させていること
配偶者控除は原則、遺産分割協議を完了させていないと適用させられません。
相続税の申告期限までに、配偶者が相続する財産の金額を明確にさせていないと、配偶者控除は利用できないからです。
申告期限までに遺産分割協議を完了させていない場合は、遺産分割が完了していないことを税務署に届け出ると、配偶者控除の適用を3年間延長してもらえる可能性があります。
延長してもらうためには、相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」と添付して、申告期限までに仮の申告を行なわなければなりません。
もし、相続税の申告期限から3年が経過しても遺産分割が完了しない場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出すると、さらなる延長が可能です。
ただし、承認を得るためには、遺産分割が完了しないやむを得ない事由を証明するための書類が必要で、一例として、遺言書や訴状などが該当します。
効果的な配偶者控除を受けるために必要なこと
配偶者控除を適用させると、配偶者が相続する財産から、1億6,000万円、もしくは法定相続分相当額のどちらか高いほうが控除されます。
被相続人が死亡した際に、法律上の婚姻関係を結んでいた配偶者であれば利用することができ、大幅な節税効果が期待できる制度です。
ただし、利用するには、二次相続のことも考慮しながら遺産分割協議を完了させなければならないため、非常に慎重さが求められます。
最も効果的に配偶者控除を適用させるなら、やはり相続を専門とした税理士事務所などに相談するべきでしょう。