目次
生前贈与とは?
生前贈与とは、所持している財産を生存している間に渡すことで、相続と細かな違いがあります。
生前贈与を上手に活用すると、相続税を大幅に軽減させられますが、使い方を誤ると、相続税やその他の納税額を増やしてしまう可能性も考えられます。
デメリットやリスクも存在しているため、活用方法をよく把握して、慎重に行なうべきです。
生前贈与とは相続とどう違うのか?
生前贈与とは、相続させる予定の財産を生存中に渡すことで、相続との最大の違いは、財産を生存中に渡すか、死後に渡すかです。
また、課せられる税金の種類や、税金の手続きをする期間も異なっており、詳しくは下記のとおりです。
|
生前贈与 |
相続 |
---|---|---|
財産の授受 |
生存中 |
死後 |
対象者 |
贈与者が決定した相手 |
法定相続人、相続人、受遺者 |
税金の種類 |
贈与税 |
相続税 |
課税対象者 |
贈与を受けた人 |
法定相続人、相続人、受遺者 |
税金申告期間 |
贈与を受けた翌年の 2月1日~3月15日 |
被相続人の死亡を知った日から 10ヶ月以内 |
表のように、生前贈与と相続には細かな違いがありますが、どちらも「相続税法」によって定められており、生前贈与は相続にも深く関わってきます。
生前贈与とは、遺産分割や遺留分に関わってくることもあり、場合によっては、贈与した財産が相続財産とみなされることもあるからです。
生前贈与のメリット
暦年贈与で相続財産の総額を減らせる
相続税対策として最も一般的に行なわれる生前贈与とは、年間110万円以内の財産を複数回に分けて贈与する「暦年贈与」です。
贈与税の基礎控除額は110万円なので、年間110万円までの贈与であれば、税金が課せられることなく贈与することができ、さらに相続財産の総額を減らせます。
つまり、総額5,000万円の財産を所持していたとしても、暦年贈与で2人に100万円ずつ、5年間贈与を行なえば、税金を支払うことなく財産の総額を4,000万円に減らせるのです。
贈与税の計算は、毎年1月1日から12月31日の1年間を区切りとしていて、年を越せば、次の年にも110万円の基礎控除を適用させられます。
生前贈与とは、暦年贈与の基礎控除の仕組みを利用した贈与を指すことが多いです。
相続時精算課税制度で節税ができる
「相続時精算課税制度」は、贈与税が2,500万円まで非課税となる制度です。
60歳以上の父母や祖父母から、20歳以上の直系の親族に贈与された場合に適用できます。
ただし、単に控除されるわけではなく、贈与された財産は、相続が発生したときに相続財産の中に含めて相続税の計算をしなければいけません。
そして、相続税の計算をするときには、相続時精算課税制度が適用されたときの財産の価値で計算を行ないます。
そのため、価値が変動しない財産であれば、相続時精算課税制度を利用する意味はなく、価値が下落する財産であれば、反対に支払う税金が多くなります。
相続時精算課税制度を利用した節税は、「贈与時よりも相続時に価値が上昇する」という前提が合った場合に効果的です。
例えば、2,500万円の株式を贈与し、相続時精算課税制度を適用させたとします。
その後、相続のときに、贈与された株式の価値が3,000万円に上昇していた場合でも、贈与されたときの2,500万円の価値で相続税の算出が可能です。
すると、相続時精算課税制度を利用しないときと比較し、財産総額が500万円少なくなるため相続税の節税ができます。
しかし、2,500万円だった株式が相続時に1,000万円に下落していたら、相続の際には2,500円の価値として計算されるため、1,500万円も財産の総額が上がってしまいます。
このように、相続時精算課税制度を上手に利用すれば大幅に相続税を軽減させられますが、使い方を誤ると、反対に納税額が多くなるため注意が必要です。
控除の適用で贈与税・相続税の対策に効果的
生前贈与で利用できる控除は基礎控除だけではありません。
他にも様々な控除が用意されているので、適用できる控除を選べば、暦年贈与よりも大きな金額をまとめて非課税で贈与できます。
利用可能な控除は次のとおりです。
控除 |
非課税額 |
条件 |
---|---|---|
配偶者控除 |
2,000万円 |
20年以上の婚姻関係にある配偶者への贈与 |
住宅取得資金等の贈与 |
1,200万円 |
住宅購入、新築のための資金の贈与 |
教育資金の一括贈与 |
1,500万円 |
教育に関連する資金の贈与 |
結婚・子育て資金の一括贈与 |
1,000万円 |
結婚、出産、妊娠、子育てのための資金の贈与 |
障害者への贈与 |
6,000万円 |
特別障害者は6,000万円まで、その他は3,000万円まで |
生前贈与とは、控除や特例を利用すれば、さらに大きな節税効果が得られます。
「結婚・子育て資金の一括贈与」「教育資金の一括贈与」「住宅取得資金等の贈与」は、暦年贈与との併用も可能です。
贈与する相手を選べる
生前贈与とは、財産を所持している人が、贈与する相手を選べるというところにも魅力があります。
相続の場合は、遺言書を作成しておかなければ、財産を相続するのは法定相続人の中の誰かです。
また、作成した遺言書に不備があれば、遺言書自体が無効となる可能性も考えられます。
ですが、生前贈与を利用すれば、贈与者自身の意思で財産を渡すことができ、法定相続人以外の人物に財産を渡すことも可能です。
また、誰にどの財産を承継するかも選べるので、相手に特定の財産を渡したいというときにも活用できます。
親族間の争いを避けられる
相続の分割の問題で親族が争い、裁判に発展するケースは少なくありません。
しかし、生前贈与を利用すれば、財産を渡す相手を選べるため、親族争いに繋がる可能性が低くなります。
生前贈与とは、親族間の争いを避ける手段としても有効です。
もちろん、すべての財産を生前贈与することは難しいですが、財産の配分について考えられるため、相続時のトラブルを未然に防げるようになるでしょう。
生前贈与のデメリット
不動産を贈与する場合費用が発生する
不動産を生前贈与する場合、贈与税以外に、登録免許税や不動産取得税などの費用が発生します。
贈与した不動産の名義変更には費用がかかりますが、相続した不動産の名義変更は、贈与のときよりも少額です。
贈与のときに必要な費用の総額と、相続税の節税効果を比較して、より良い選択をしなければいけません。
不動産の名義変更に必要な登録免許税と不動産取得税は、贈与と相続でそれぞれ次のとおりです。
|
固定資産評価額 |
相続 |
贈与 |
---|---|---|---|
登録免許税 |
1,000万円 |
4万円 |
20万円 |
2,000万円 |
8万円 |
40万円 |
|
3,000万円 |
12万円 |
60万円 |
|
5,000万円 |
20万円 |
100万円 |
|
8,000万円 |
32万円 |
160万円 |
|
1億円 |
40万円 |
200万円 |
|
不動産取得税 |
– |
非課税 |
評価額の約3% |
必要な費用を比較してみると、贈与のほうが圧倒的に高額な費用が必要であることがわかります。
不動産を生前贈与する場合は、節税できる相続税額、相続時に必要な費用、贈与時に必要な費用の3つを算出し、比較する必要があります。
贈与が無効になるケースがある
相続開始から過去3年以内に贈与を行なっていた場合、贈与した財産は相続したものとみなされ、相続税の課税対象となります。
非課税の暦年贈与を行なっていたとしても、相続税の課税対象に含まれてしまうため、相続開始前3年間の生前贈与は無駄になるということです。
ただし、相続の課税対象に含まれる贈与は、法定相続人に贈与を行なった場合のみです。
法定相続人以外の親族や、親族以外の人物に贈与を行なった場合は問題ありません。
相続開始過去3年より以前に行なった生前贈与でも、無効とされるケースはあります。
贈与を行なった証明である贈与契約書を交わしていない場合や、契約書に不備が合った場合、相続前に贈与契約書を紛失してしまった場合などです。
さらに、受け取る側が同意し、財産を自由に利用できるようにしなければ贈与は成立しないため、贈与契約の成立条件を満たしていない場合も無効とされます。
相続税の計算が難しくなる
相続時精算課税制度を適用した贈与をしていた場合や、相続開始から過去3年以内に贈与をしていた場合、対象の贈与額を相続財産の中に含めなければいけません。
そのため、生前贈与を利用しないときと比較して、相続税の計算が難しくなり、手間がかかります。
相続税の計算が難しくなるということは、相続税の金額を誤ってしまう可能性が高いということです。
生前贈与を行なったために、遺族を混乱させてしまう可能性が考えられます。
定期贈与のリスク
暦年贈与を続けて行なっていると、「定期贈与」とみなされて、高額の贈与税が課せられる可能性があります。
「節税目的で1回で行なえる贈与を分割している」として税務署から調査を受けた結果、贈与した財産すべてが1年間で贈与されたものとして、高額な贈与税が課せられる場合があるからです。
暦年贈与は生前贈与の中でも取り組みやすい節税対策ですが、税務署の調査を受け、高額な税金が課せられるリスクがあることも覚えておいてください。
生前贈与をするときは慎重に
生前贈与とは、生存している間に相続予定の財産を贈与することで、相続と細かな違いがありますが、どちらも「相続税法」の対象です。
上手に生前贈与を利用すれば、相続税や贈与税を大幅に軽減させられますが、その反面、反対に支払うべき税金が増えてしまう可能性や、相続税の計算が難しくなるというデメリットもあります。
特に、暦年贈与や相続時精算課税制度を利用するときには、利用するタイミングや方法を慎重に考えなければいけません。
生前贈与を効果的に利用するためには、やはり相続の専門家に依頼することをおすすめします。