目次
生前贈与で土地を贈与する流れとメリット・デメリットについて
生前贈与で土地を贈与すると、贈与する相手を選ぶことができ、相続財産の総額を減少させられるため、相続税の節税に効果的です。
しかし、相続税の代わりに贈与税、登録免許税、不動産取得税の3種類の税金が課せられます。
土地の贈与には節税などのメリットもありますが、手間と費用、税金が発生するというデメリットもあり、慎重に考えてより良い選択をすることが大切です。
土地を贈与するメリットとデメリットは?
メリット
生前贈与で土地を贈与する最大のメリットは、相続税を大幅に軽減させられるということです。
高額な財産であるため、生前贈与を行なっておけば、課税対象となる相続財産の総額を減らすことができ、相続税が少なくなります。
また、贈与する相手を選べるということもメリットの一つです。
相続では法定相続人の話し合いによって、誰がどの財産を相続するかが決まりますが、生前贈与は財産を所持している人が受贈者を選べます。
土地を特定の誰かに承継したいという場合に有効です。
そして、贈与する相手を選べることは、親族間のトラブルを未然に防ぐことにも繋がります。
相続する財産を巡って、法定相続人間で争いが起こり、裁判に発展することは珍しくありません。
高額な財産である土地を生前贈与しておけば、トラブルが起きる可能性も低下します。
デメリット
生前贈与で土地を贈与すると、相続税は軽減させられますが、代わりに贈与税が発生します。
贈与税には土地に関する控除制度があるので、上手に利用すれば、相続税も贈与税も節税可能です。
ただし、控除制度をうまく利用できなかった場合は、高額の贈与税が発生する可能性もあります。
また、贈与は相続と比較して、名義変更に必要な費用も高額なので、贈与税と必要な費用の両方を支払わなければなりません。
名義変更登記の手続きは時間と手間がかかることもデメリットの一つです。
贈与税の計算方法と必要な費用
贈与税の計算方法
贈与税額 = (土地の資産評価額 – 110万円) × 税率 – 控除額
贈与税の計算は、まず土地の資産評価額を調べ、資産評価額から基礎控除額の110万円を差し引きます。
基礎控除を差し引いた金額が贈与税の課税対象額となり、該当の課税対象額に応じた税率を乗じた後、控除額を差し引けば算出可能です。
親、祖父母から子供、孫 |
その他の贈与 |
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課税額 |
税率 |
控除額 |
課税額 |
税率 |
控除額 |
200万円以下 |
10% |
– |
200万円以下 |
10% |
– |
300万円以下 |
15% |
10万円 |
400万円以下 |
15% |
10万円 |
400万円以下 |
20% |
25万円 |
600万円以下 |
20% |
30万円 |
600万円以下 |
30% |
65万円 |
1,000万円以下 |
30% |
90万円 |
1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
1,500万円以下 |
40% |
190万円 |
1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
3,000万円以下 |
45% |
265万円 |
3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
4,500万円以下 |
50% |
415万円 |
3,000万円超 |
55% |
400万円 |
4,500万円超 |
55% |
640万円 |
出典:国税庁:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
贈与税の税率と控除額は上記のとおりです。
上記の表を使って、例えば、父から子へ3,000万円の土地を生前贈与した場合と、配偶者へ3,000万円の土地を生前贈与した場合の計算をしてみましょう。
父から子:(3,000万円 – 110万円) × 50% – 250万円 = 1,195万円
配偶者へ:(3,000万円 – 2,000万円 – 110万円) × 40% – 125万円 = 231万円
相続税額が大きく異なる理由は、配偶者に土地を贈与する場合、「配偶者控除」を適用できる可能性が高く、適用した場合は2,000万円まで非課税とされるからです。
相続時精算課税制度の適用
相続時精算課税制度とは、贈与をした財産の2,500万円までが非課税となる控除制度です。
2,500万円を超過した場合は、超過分に対して一律20%の贈与税が課されます。
生前贈与で不動産などの高額な財産を贈与するときには、適用させると節税ができる場合もあります。
相続時精算課税制度は不動産にも適用させられるため、適用させると、大幅な贈与税の節税が可能です。
ただし、相続時精算課税制度を適用させた財産は、相続が発生したとき、相続する財産の中に戻さなければいけません。
そのため、贈与税は非課税ですが、代わりに相続税が発生します。
2,500万円までが非課税となる事実は、一見節税に非常に効果的だと感じられますが、相続税が発生することを覚えておいてください。
ただし、相続時精算課税制度を適用させた財産の評価は、相続時でも贈与時の評価で計算されます。
土地は建物のように年々価値が下落することはないので、将来的に価値が上昇すると見込まれる場合、相続時精算課税制度で節税できる可能性もあります。
贈与税以外に必要な費用
生前の贈与には、贈与税以外に「登録免許税」と「不動産取得税」が課せられます。
登録免許税は、名義変更登記のときに必要となり、不動産の固定資産評価額の2%です。
不動産取得税は、名義変更から約半年後に課せられる税金で、不動産の固定資産評価額の3%から4%です。
贈与税の計算の項でご紹介した例を使って、登録免許税と不動産取得税を算出してみます。
登録免許税:3,000万円 × 2% = 60万円
不動産取得税:3,000万円 × 3~4% = 90~120万円
合計:150~180万円
土地の生前贈与には、贈与税以外に上記の費用が必要ですが、土地を相続する場合は必要な費用が少なくなります。
相続の場合は、登録免許税が0.4%に引き下げられ、不動産取得税が無税となるからです。
贈与ではなく相続を選んだときの登録免許税と不動産取得税を計算してみます。
登録免許税:3,000万円 × 0.4% = 12万円
不動産取得税:0円
計算式からわかるように、登録免許税と不動産取得税だけを考慮すると、圧倒的に相続のほうが節税効果が期待できます。
不動産を贈与する場合には、贈与税以外の費用も含めて考慮し、生前贈与と相続のどちらを選択するか慎重に考えなければいけません。
生前贈与で土地を贈与するときの流れ
受贈者と贈与するものを決めて合意を得る
最初に、生前贈与をする対象者と、贈与する財産を決めて、受贈者の合意を得ます。
不動産を贈与する場合、贈与税の節税に役立つ控除が用意されているため、贈与を行なう対象者は慎重に決めなければいけません。
対象者を決めたら、贈与者と受贈者で話し合いを行なって、贈与の合意を得てください。
贈与契約書を作成する
贈与の合意を得たら、土地を贈与した証明として、贈与契約書を作成します。
生前贈与は贈与契約書がなくても成立しますが、土地の名義変更登記や贈与税の申告には贈与契約書が必要です。
また、生前贈与を受けた証拠にもなるので、相続が発生するまで保管しておいてください。
名義を変更するための変更登記をする
次に、法務局で土地の名義を変更するための登記をします。
名義変更登記は生前贈与のためには必要ありませんが、土地の名義変更登記を行なっていないと、法律上では受贈者のものでないとみなされます。
そのため、名義変更登記が完了していないと、受贈者による土地の売却や担保の設定ができません。
贈与税申告に必要な書類を揃える
贈与税の申告をするために、必要な書類を揃えていきます。
・不動産の権利書(登記識別情報)
・贈与者の印鑑登録証明書
・受贈者の住民票
・登記原因証明情報(贈与契約書)
・固定資産評価の証明書
・不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)
贈与税申告書を作成する
贈与税の申告に必要な書類が揃ったら、贈与税申告書を作成します。
申告書は「兼贈与税の額の計算明細書」「住宅取得等資金の非課税の計算明細書」「相続時精算課税の計算明細書」の3種類あり、法務局の公式サイトからダウンロードして印刷可能です。
また、決まった雛形でなくても、必要な情報が漏れなく記載されていれば、申告書として提出できます。
付属する書類を作成する
付属する書類とは、収入印紙を貼り付けた用紙と委任状のことです。
不動産変更登記のときの登録免許税分の収入印紙を、A4の用紙に貼り付けて、登記申請書に綴じておきましょう。
委任状は、登記申請を委任していない場合は不要ですが、代理人に委任した場合は申請書に添付します。
申告書の提出をする
不動産名義変更登記が完了して、贈与税申告書と必要書類、付属書類の全てが揃ったら、法務局に提出します。
提出後、1週間から2週間後に土地の新しい権利書を受け取り、生前贈与は完了です。
贈与税の申告と納税をする
贈与税の申告は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの期間中に、受贈者が行ないます。
申告書の作成方法は特例や控除の適用状況によって変わりますが、特例や控除を利用して贈与税が0円の場合も申告は必要です。
贈与税の納税も、申告期間中に行ないます。
土地の生前贈与は節税効果を考えて慎重に
生前贈与で土地を贈与すると、贈与者が選んだ相手に不動産を渡すことができ、相続税の節税になるというメリットがあります。
反面、贈与税、登録免許税、不動産取得税などの税金が発生し、名義変更の手間が必要だという点がデメリットです。
そのため、不動産を生存中に贈与したいときには、相続と贈与のどちらが節税になるかよく比較しなければいけません。
また、不動産の贈与には複雑な手続きも必要なので、不動産の生前贈与を考えている場合や、贈与を行なおうとしている場合は、相続の専門家に相談することが一般的です。