相続税の負担を軽減するのに効果的なのが生前贈与と呼ばれる方法です。これはその名の通り、生きている間に財産の一部を渡しておく方法となります。
こうすることにより、亡くなった後に渡す相続財産が少なくなるため、税金を減らすことができるのです。
ただし、生前贈与に対し、税金がかからないわけではありません。何も考えずに生前贈与をすると損をしてしまうことがあるので、非課税の範囲に関する具体的な方法や注意点についてはよく確認しておきましょう。
この記事を参考にすることによりよくある失敗も防げるようになります。
目次
生前に贈与しておいたほうが相続税がお得になる
生前贈与した財産は非課税ではなく、贈与税がかかります。
非課税ではないのなら亡くなってから財産を受け取り、相続税を支払うのと変わりないのでは?と考える方もいるかもしれませんが、うまく生前贈与をすれば大幅に節税ができるため、結果的に相続人が受け取れる金額も大きくなるのです。
これは、生前贈与することにより相続する財産の金額が減るため。
財産が多ければその分、多くの税金を取られることになってしまうので、非課税の範囲内でうまく生前贈与を活用し、税金の発生する財産を抑えましょう。
生前贈与で発生する贈与税は2種類
相続税は、「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」を超えた部分の財産に発生することになります。該当する場合は相続税を抑えるためにも生前贈与について検討してみましょう。
生前贈与では相続税というものが発生するのですが、大きく分けると、「暦年課税」と、「相続時精算課税」の2種類となります。
贈与される側にあたる方はどちらかを選択しなければならないため、それぞれの違いについてよく押さえておきましょう。
例えば、両親からそれぞれ財産を受け取れる場合は、父親から受ける贈与は暦年課税、母親からは相続時精算課税などと別々に選択ができます。
ただし、1度相続時精算課税制度を選択した場合は暦年課税に変更できないので注意しておきましょう。
暦年課税
毎年贈与を受ける方法で、1月1日~12月31日の間に受け取った基礎控除額である110万円を超えた場合に限り発生する税金です。
仮に120万円の財産を受け取った場合、120万円に対して贈与税がかかるのではなく、オーバーした10万円が課税の対象となります。
つまり、年間の受け取る金額を110万円以下にすることにより、非課税で生前贈与ができるわけです。
相続時精算課税
通算2,500万円までなら贈与税がかからない選択肢です。ただし、相続時精算課税を選択できるのは60歳以上の親、または祖父母が20歳以上の子ども、孫に贈与する場合のみとなっています。
生前贈与を非課税で行なう6つの方法
生前贈与を非課税で行なう方法として検討したい6つの方法を解説します。
生活費は扱いが異なる
親や祖父母から受け取るお金がすべて贈与になるわけではありません。
生活費や教育費として受け取ったものは贈与税の対象にはならないからです。
ただし、これは通常の生活費として認められる範囲に限ります。
例えば、毎月の生活費としては多すぎる金額を渡したような場合は生活費ではなく、贈与として判断されてしまうのです。
親が子どもに対し、
- 常識の範囲内での生活費
- 教育費
- 結婚費用
- 出産費用
などを負担した場合は贈与税は課税されないことになります。
万が一、生活費として受け取ったはずのお金を投資に回していたりした場合には贈与税が課税されることになるので、十分に注意しておきましょう。
場合によっては数年分の生活費などをまとめて贈与されることがありますが、こういったケースではその年に使い切れなかった分の金額に対して贈与税が課税されることになります。
ただし、教育費や子育て費用に関しては一括贈与に関して非課税になる特例も用意されているので、チェックしてみてくださいね。
年間110万円まで暦年贈与として受け取る
先述したように、暦年贈与というのは毎年贈与を受ける方法のことです。
贈与された人の非課税金額は、1年間で110万円までとなっており、仮に1年間で100万円贈与されたような場合は非課税の範囲内なので基本的に申告の必要はありません。
ただ、例えば子どもが同じ年に父から80万円、母からも50万円を贈与されたようなケースではそれらを合計して計算しなければならないため、130万円贈与されたことになり、非課税ではなくなるので注意しておいてくださいね。
生前贈与でもう一つ気をつけなければならないのが、親と子の間で「総額で500万円の贈与をする予定ではあるものの、税金対策で基礎控除額以下にするため、毎年100万円ずつ贈与する」といった取り決めをするのは認められないということ。
このようなことを行なうと「連年贈与」と呼ばれるものに該当し、500万円を受け取ることを約束した年に全額の給付を受ける権利を手にしたものとして、総額である500万円に対して生前贈与の贈与税がかかってしまうのです。
対策としては、年によって贈与する時期や金額を変更するなどの方法があるので、事前にチェックしておきましょう。
夫婦間贈与で贈与税の配偶者控除を受ける
「おしどり贈与」とも呼ばれているものです。
通常、暦年贈与は基礎控除が110万円となっていますが、一定の条件を満たすことにより不動産の贈与で最高で2,000万円まで配偶者控除を受けることができます。
つまり、基礎控除と合わせて最大で2,110万円まで非課税で贈与できるわけです。かなり大きいといえるのではないでしょうか。
適用されるための条件としては、次の3つです。
- 婚姻期間が20年以上の夫婦であること
- 居住用不動産、またはその取得資金のための贈与であること
- 贈与された翌年の3月15日までに定住、その後、住み続けることが見込めること
- 同じ配偶者の贈与でこの特例を使用するのが初めてであること
また、対象となる居住用の不動産も日本国内の土地にあるもので、贈与された配偶者の居住用住宅、または土地でなければなりません。
それから、贈与税の配偶者控除後を受けるためには贈与税申告をしなければならないので、仮に税額が0円であったとしても贈与税の申告を忘れないようにしましょう。
住宅取得資金等の贈与
住宅取得のための資金を父母や祖父母から贈与された場合に、最大1,200万円まで非課税になる制度です。
気をつけておかなければならないのが、この制度は平成27年1月1日から始まり、平成33年12月31日までの間に利用可能な期間限定の制度だということ。
将来的に両親から援助を受けてマイホームを購入する予定でいる方などは、期間に注意しておきましょう。
なお、消費税が8%の場合、住宅取得資金等の生前贈与の非課税枠は次のように定められています。
契約の締結期間 |
省エネ等の住宅 |
左記以外の住宅用家屋 |
---|---|---|
平成28年1月1日~平成32年3月31日 |
1,200万円 |
700万円 |
平成32年4月1日~平成33年3月31日 |
1,000万円 |
500万円 |
平成33年4月1日~平成33年12月31日 |
800万円 |
300万円 |
続いて消費税が8%の場合の住宅取得資金等の贈与の非課税枠です。
契約の締結期間 |
省エネ等の住宅 |
左記以外の住宅用家屋 |
---|---|---|
平成31年4月1日~平成32年3月31日 |
3,000万円 |
2,500万円 |
平成32年4月1日~平成33年3月31日 |
1,500万円 |
1,000万円 |
平成33年4月1日~平成33年12月31日 |
1,200万円 |
700万円 |
適用条件は次の通りとなっています。
- 受贈者は贈与者の直系の子または孫である
- 住宅取得資金の贈与である
- 贈与を受けた年の受贈者の所得は2,000万円以下である
- 贈与を受けた年の1月1日時点で受贈者が20歳以上である
- 住宅の売り主や建築工事の発注先は配偶者や親族ではない
- 翌年3月15日までに自分の住居として住むか、確実に住む見込みである
取得する住宅の面積なども定められているので注意が必要です。
また、1つめの条件に対して注意が必要で、「受贈者は贈与者の直系の子または孫」でなければならないため、例えば旦那さんの名義で住宅を購入する際に奥さんのご両親などからの援助は対象となりません。
気をつけておきましょう。
相続時精算課税制度
2,500万円まで贈与税が非課税になる制度で、大きな特徴ともいえるのが、贈与を行なうほうが亡くなるまでに贈与した財産と、亡くなった時の遺産を一体の財産と考えて課税する方法となります。
改善されるのは2,500万円を超えた部分ということになるのですが、一度制度を利用すると途中で撤回はできません。
適用のための条件として定められているのは次の2つです。
- 贈与する年の1月1日時点で60歳以上の両親、または祖父母からの贈与
- 贈与される側は贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上の子、または孫
教育資金として贈与を受ける
教育資金として祖母や祖父母から一括贈与を受けると、受贈者1人に対して1,500万円までは非課税です。
学校以外の塾などに払うものに関しては、このうち500万円までが非課税の対象となります。
贈与を受ける方は金融機関で贈与を受けるお金を振り込んでもらうための教育資金口座を開設し、税務署に届け出を出さなければなりません。
また、贈与されたお金が必要になって引き出した場合には、所定の期日まで金融機関に教育費の領収書を提出する必要があります。
各特例の特徴を押さえて最適なものを選択
いかがだったでしょうか。
生前贈与を非課税で行なうための方法や、各特例を利用するための条件などについてご紹介しました。
生前贈与について全く検討していないと、生前贈与を受ける際に想像以上の税金を支払わなければならず、困ってしまうことがあります。
できるだけ損をしないためにも、財産をどのような方法で受け取っていくのかについて早い段階で検討していきましょう。
贈与する側とされる側で話し合いも必要になってくるので、よく話し合って慎重に決めることが大切です。