遺産分割は、相続開始と同時に共同相続人の共有に属することになった被相続人の財産を、各相続人に帰属させる方法です。遺産分割はいつまでにしなければならないのでしょうか。遺産分割の期限と遺産相続に関する期限を詳しく解説します。このページをみれば、抱えている疑問が解決するはずです。お悩みの方は参考にしてください。
目次
遺産分割に期限はないが手続きは早めがベスト
遺産分割は複雑な手続きを必要とするので、どのように進めれば良いかわからない方が多いはずです。最初に確認するべきは、遺産分割の期限といえるでしょう。
遺産分割に期限はない
遺産分割に、法律で定められた期限はありません。つまり、いつまでに遺産分割をしなければならないとは決まっていないのです。この点だけをみれば、焦る必要はないといえそうです。ちなみに、遺産分割には以下の4つの方法があります。
・指定分割
・協議分割
・調停分割
・審判分割
それぞれの簡単な解説をいたします。
指定分割
遺言に従い財産を分割する方法です。協議分割・調停分割・審判分割よりも優先される点に注意が必要です。
協議分割
共同相続人が全員参加して、全員の同意により財産を分割する方法です。全員の合意があれば、法定相続分に従う必要はありません。同じく、再分割協議を行うことも可能です。協議成立後は、遺産分割協議書を作成します。
調停分割
協議で合意を得られない時に、共同相続人の申し立てに基づき家庭裁判所の調停で分割する方法です。
調停分割
家庭裁判所の調停でも分割協議が成立しない時に、家庭裁判所の審判によって分割する方法です。共同相続人全員の合意がないと、法定相続分に反する分割は行えません。
遺産分割を放置し続けることはお勧めできない
遺産分割には以上の方法があります。法律上の期限はないので焦る必要はないといえそうですが、遺産分割を先送りし続けると利用できたはずの特例を利用できないなどのデメリットが生じる恐れがあります。
これにより財産の評価減を認めてもらえないこともあるので、特別な事情がない限り遺産分割は早めに済ませるほうが良いでしょう。ちなみに、被相続人は遺言で相続の開始から5年を超えない範囲で遺産の分割を禁止することができます。
遺産相続の手続きには期限があるものもある
遺産分割の期限は定められていませんが、遺産相続の手続きの中には期限が定められているものもあります。定められた期限を守らないと、予想外のトラブルに発展するかもしれません。遺産分割の期限が気になる方は、遺産相続の流れと期限も把握しておきましょう。
遺産相続の手続きの流れ
一般的に、遺産相続の手続きは次の流れで進みます。
STEP1:被相続人の死亡
STEP2:死亡届の提出
STEP3:遺言書の有無を確認(自筆証書遺言と秘密証書遺言は家庭裁判所の検認が必要)
STEP4:相続人の調査
STEP5:相続財産の調査
STEP6:相続放棄・限定承認
STEP7:準確定申告
STEP8:遺産分割協議開始
STEP9:遺産分割調停・遺産分割審判
STEP10:遺留分減殺請求
STEP11:不動産の相続登記など
STEP12:相続税の申告・納税、相続税の軽減措置の適用
ケースにより必要な手続きは異なります。例えば、遺産分割協議が調えば遺産分割調停・遺産分割審判は必要ありません。全体の大まかな流れとしてお考えください。
期限が設けられている手続き
以上の手続きの中には、期限が定められているものがあります。
期限内に手続きを済ませないと、手続きを済ませておけば払わなくてよかった税金を納めなければならないこともあります。相続が発生した方は、必要な手続きを期限内に済ませることが重要です。期限が定められている手続きは、以下の通りです。
・相続放棄、限定承認
・準確定申告
・遺留分減殺請求
・相続税の申告、納税
・相続税の軽減措置の適用
各手続きの内容を詳しく解説いたします。
期限がある手続き①:相続放棄、限定承認
相続人は、相続があったことを知った時から一定の期間以内に以下のいずれかを選択しなければなりません。
・単純承認
・相続放棄
・限定承認
相続放棄・限定承認とはどのような手続きなのでしょうか。また、一定の期限を過ぎるとどうなってしまうのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
相続放棄
相続放棄は、文字通り相続を放棄することです。被相続人のすべての財産の承継を拒否します。重要なポイントは、プラスの財産もマイナスの財産も含めて承継を拒否することです。遺産の中に大きなマイナスの財産が含まれている時に検討したい選択といえるでしょう。
被相続人の財産を無条件で相続する単純承認を選択すると、借金や負債など、マイナスの財産も相続してしまいます。例えば、借金を相続すると、相続人は被相続人に代わって借金を返済していかなければなりません。
相続放棄を選択すれば、被相続人のすべての財産の承継を拒否できるので借金を返済する必要はなくなります。
相続放棄を選択した相続人は、初めから相続人とならなかったものと考えます。よって、遺産分割協議に参加する必要もなくなります。また、本来であれば相続するはずであった財産を他の相続人に配分することができるので、相続放棄は特定の相続人の財産分を増やしたい時などにも有効な選択になります。
限定承認とは
限定承認は、被相続人から受け継いだプラスの財産からマイナスの財産を支払い、プラスの財産を超えるマイナスの財産は責任を負わないとする手続きです。つまり、プラスの財産がマイナスの財産より多い時は残りの財産を受け取り、マイナスの財産がプラスの財産より多い時は財産を受け取りません。よって、借金や負債などを引き継がなくて済みます。
限定承認も、相続財産の中にマイナスの財産がある時に検討したい手続きです。当然ながら、相続放棄とは異なり限定承認を選択しても、初めから相続人とならなかったものとはなりません。特定の相続人の財産を増やす目的には適していないといえるでしょう。
相続放棄、限定承認の期限はどれくらい?
相続放棄、限定承認とも、遺産の中にマイナスの財産が含まれる時に検討したい手続きです。適切に選択することで、借金などの相続を免れることができます。ここで気になるのが、相続放棄、限定承認を選択しなければならない期間です。相続放棄、限定承認はいつまでに手続きを行わなければならないのでしょうか。
民法915条では、「自己のために相続の開始があったことを知った日から3カ月以内」に単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかを選択しなければならないと定められています。
相続放棄、限定承認は、相続の開始があったことを知った日から3カ月以内に選択しなければなりません。この期間を熟慮期間といいます。
熟慮期間で問題になりやすいのが「自分のために相続の開始があったことを知った日」です。基本的には、被相続人が死亡して遺産相続が開始したことを知った日と考えられますが、相続人が遺産はないと信じている場合は話が難しくなります。
相続放棄や限定承認の必要性を理解しないからです。必要性を見出していなければ、被相続人が死亡したことを知ったとしても相続放棄や限定承認を選択することはありません。つまり、時間だけが経過してしまいます。このようなケースが考えられるので、相続人に遺産があることを知らなかった正当な理由がある場合は、熟慮期間のカウントは始まらないと考えられています。
「遺産相続が開始したこと」と「何かしらの相続財産があること」を知った日から、熟慮期間のカウントは始まると考えられているのです。
ただし、相続人に過失が認められる場合は、熟慮期間のカウントが始まる恐れがあります。相続の開始を知った方は、相続財産の有無を調べたうえで対応を検討するべきといえるでしょう。
期限を過ぎるとどうなる?
相続放棄、限定承認を選択せず、相続の開始があったことを知った日から3カ月を超えると単純承認したものとみなされます(単純承認を選択したい場合は、特別な手続きを必要としません)。単純承認とは、被相続人のすべての財産を無条件で相続する手続きです。
プラスの財産しかない場合は問題ありませんが、マイナスの財産がある場合は期限を過ぎることで問題に発展するかもしれません。単純承認したものとみなされることで、借金や負債なども相続してしまうからです。
マイナスの財産があることを知らずに単純承認をしてしまうと、ある日突然、相続人のもとに借金の支払通知書が届くかもしれません。急いで相続放棄や限定承認を選択したくなりますが、相続人のもとに支払通知書が届くということはすでに期限が過ぎて単純承認したものと考えられます。
期限が過ぎた後で、相続放棄や限定承認を選択することはできません。人生を変えてしまうこともあるので、相続の開始を知った方は相続財産を調査して期限内に単純承認・相続放棄・限定承認のいずれかを選択ことが重要です。
期限を延長する方法
熟慮期間の3カ月は、長いようで短いといえます。相続財産を調査していると、あるいは相続放棄と限定承認で悩んでいると、あっという間に過ぎてしまします。熟慮期間内に対応を決められない方は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し出るとよいでしょう。
相続人が多数いて簡単には決められない場合や相続財産が複雑で全体像をつかみにくい場合、海外在住で手続きに時間がかかる場合などは、期限を延長してもらえる可能性があります。延長してもらえる期限は、3カ月~6カ月程度です。
この期間内に、再び伸長を申し出ることも可能です。ただし、熟慮期間経過後に伸長を申し立てることはできません。この点には注意が必要です。
熟慮期間伸長の申し立ては、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。ポイントは、相続人ではなく被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所であること。
申し立てには、被相続人の戸籍謄本、住民票除票などが必要です。
申請すれば必ず認められるわけではないので、基本的には3カ月以内に手続きを進められるようにしておきましょう。
相続放棄、限定承認の手続き方法
相続放棄、限定承認の手続きはどのように進めればよいのでしょうか。どちらの手続き(相続放棄の申述と限定承認の申述)も、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。ポイントは、相続人ではなく被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で手続きを行うことです。
相続放棄を選択する場合は「相続の放棄の申述書」、限定承認を選択する場合は「相続の限定承認の申述書」を提出します。いずれの場合も、書面で照会を受けることや会って事情を聞かれることがあります。両申述には、被相続人の戸籍謄本や住民票除票などが必要です。
相続の放棄は各相続人が単独で手続きを進められるのに対し限定承認は相続人全員が家庭裁判所へ申述しなければなりません。繰り返しになりますが、相続放棄、限定承認の期限は3カ月以内です。これを過ぎると単純承認したものとみなされます。手続きや期限に不安を感じる方は、専門家に相談するとよいでしょう。
期限がある手続き②:準確定申告
準確定申告も、期限がある相続に関わる手続きです。期限内に手続きを済まさないと、余計な税金を払わなければならないことがあります。続いて、準確定申告について解説します。
準確定申告とは
準確定申告とは、確定申告を行わなければならない被相続人に代わって、相続人が所得金額と税額を計算し申告と納税を行うことをいいます。
個人事業主などは、毎年1月1日~12月31日までに生じた所得と所得に対する税額を計算し、翌年の2月16日~3月15日までの間に申告と納税を行わなければなりません。
年度の途中で本人が死亡した場合は、所得と税額の計算、申告と納税を行う人がいなくなります。これらを相続人が変わって行うことを準確定申告というのです。
準確定申告を行わなければならないケースは多岐にわたります。最も多いと考えられるのは被相続人が個人事業主であるケースですが、給与所得者であっても給与などの収入金額が2,000万円を超える場合や給与所得、退職所得以外の所得金額が20万円を超える場合、2カ所以上から給与を受け取っている場合などは準確定申告が必要になります。
意外と多くのケースで必要な手続きなので、期限などを確認しておきましょう。
準確定申告の期限はどれくらい?
準確定申告の期限は、相続が開始してから4カ月以内です。この間に、所得税の納税も行わなくてはなりません。通常の確定申告の期限(所得が発生した年の翌年の2月16日~3月15日)とは異なるので注意が必要です。相続人が申告するべき所得が発生した年の翌年1月1日~3月15日までの間に死亡した場合は、死亡した年の前年分と死亡した年分の準確定申告を相続が開始してから4カ月以内に行います。
ちなみに、熟慮期間のように曖昧な点はありません。例外はあるものの、相続の開始を知らなかったなどといっても、準確定申告の期限が伸びることは基本的にありません。4カ月を過ぎると期限切れとなってしまいます。期限が切れた場合どうなってしまうのでしょうか。
期限が過ぎるとどうなる?
準確定申告の期限を過ぎると、延滞税や無申告加算税などを課される恐れがあります。
延滞税とは、税金を定められた期限までに納付しない場合に課される税金です。具体的には、納付期限の翌日から納付する日までの日数に応じて延滞税が課されます。
延滞税の割合は、納付期限の翌日から2月を経過する日までは年7.3%、納付期限の翌日から2月を経過した日以後は年14.6%が原則です。
無申告加算税とは、正当な理由がないにもかかわらず申告期限まで申告しなかった場合に課税される税金です。期限を過ぎてから申告した場合や所得金額の決定を受けた場合に、納めるべき税額に加えて課されます。無申告加算税の税額は、納付する税額が50万円までの部分は15%、50万円を超える部分は20%を乗じて求めます。
申告期限を過ぎていたとしても税務調査を受ける前に自主的に申告すると、税額の軽減を受けられるので準確定申告の必要性に気づいた方は早めに済ませるとよいでしょう。
準確定申告を忘れていると、税額が高額になる恐れがあります。相続人が確定申告を行っていた方などは、準確定申告の必要性についても調べてください。
準確定申告の手続き方法
準確定申告と確定申告の手続きに大きな違いはありません。
国税庁のホームページなどで確定申告書を取得して記入します。使用する確定申告書は、被相続人が会社員や年金受給者の場合は申告書A様式、被相続人が個人事業主や不動産所得がある場合は申告書B様式となります。
申告書の記入方法はケースにより異なりますが、申告書に準確定申告と記載する点は共通しています。相続人が2人以上いる場合は、それぞれの相続人が連署により準確定申告書を提出します。あるいは、他の相続人の名前を書き加えて相続人が別々に準確定申告書を提出することもできます。
準確定申告書の提出先は、被相続人の住所地を管轄する税務署です。相続人の住所地を管轄する税務署ではないので気を付けてください。
住所地を管轄する税務署は、インターネットや電話で確認することができます。
準確定申告には、源泉徴収票や生命保険の控除証明書などが必要です。これらの書類は依頼すれば発行してもらえますが、発行に時間がかかることもあります。もちろん、被相続人の所得を確認する作業なども大変です。相続に関するその他の手続きと並行して進めることが難しい方は、できるだけ早く専門家に相談しましょう。
期限がある手続き③:遺留分減殺請求
遺言がある場合などに注意したいのが、遺留分減殺請求の期限です。期限を押さえておかないと、想定外の事態に陥るかもしれません。続いて、遺留分減殺請求について解説します。
遺留分減殺請求とは
基本的に、法定相続人は法定相続分に応じた財産を受け取れますが、遺言などにより十分な財産を受け取れないことがあります。
例えば、被相続人が愛人に財産のすべてを相続させる遺言を残すと、法定相続人は財産を受け取れなくなります。
このようなケースで主張できる最低限度の財産の割合が遺留分です。遺留分を請求することを遺留分減殺請求といいます。
遺留分は遺言によっても侵害できない権利です。ただし、黙っていても認められるわけではありません。被相続人は財産を自由に処分する権利を有しています。よって、相続人の遺留分を侵害する遺言を残すことも可能です。
相続人が遺留分を請求しなければ、このような遺言でも有効となり相続が行われてしまいます。遺留分は、遺留分減殺請求することで認められる権利なのです。
遺留分減殺請求を行える範囲
ただし、誰でも遺留分減殺請求を行えるわけではありません。遺留分減殺請求を行えるのは、法定相続人のうち配偶者・子ども・直系尊属とその代襲相続人だけです。
代襲相続人とは、相続人になる予定だった人が死亡、欠格、廃除により相続権を失っている時に、その人に代わり相続人になる人をいいます。
ただし、配偶者・子ども・直系尊属とその代襲相続人であっても相続放棄をしている場合は遺留分請求を行えません。欠格、廃除により相続権を失っている場合も同じです。また、被相続人の兄弟姉妹に遺留分は認められていません。よって、兄弟姉妹とその代襲相続人も遺留分減殺請求を行えません。
遺留分の割合
ここで気になるのが遺留分の割合です。相続人が直系尊属だけの場合は相続財産の3分の1、これ以外の場合は相続財産の2分の1が遺留分として認められています。例えば、相続財産が1億円、相続人が配偶者、長男、次男の場合の遺留分は次のようになります。
・配偶者:1億円×1/2(遺留分割合)×1/2(法定相続分)=2,500万円
・長男:1億円×1/2(遺留分割合)×(1/2×1/2(法定相続分))=1,250万円
・次男:1億円×1/2(遺留分割合)×(1/2×1/2(法定相続分))=1,250万円
遺留分が侵害された場合は、遺留分請求を行うことで以上の遺留分を取り戻すことができます。
遺留分減殺請求の期限はどれくらい?
遺留分減殺請求を行える期限は、ケースにより異なります。具体的には、以下のように分かれます。
1.相続の開始または減殺するべき遺贈や贈与があったと知った時から1年以内
2.相続の開始があった時から10年以内
1に関しては、被相続人の死亡、遺贈などがあったことを知った時から1年以内と考えるとよいでしょう。この期間を過ぎると、遺留分減殺請求を行えなくなります。
2に関しては、文字通り相続の開始があった時から10年以内です。被相続人の死亡や遺贈などがあったことを知らなくても、相続が開始してから10年を超えると遺留分減殺請求を行えなくなります。
期限が過ぎるとどうなる?
遺留分減殺請求の期限を過ぎると、遺留分があったとしても請求できなくなります。また、遺留分調停なども起こせなくなります。例えば、妻に先立たれたのち内縁関係にある女性と一緒に暮らしていた父が亡くなり、その女性に財産のすべてを相続させるという遺言書を残していた場合どうなるのでしょうか。
内縁関係にあった女性に相続権はありませんが、遺言で財産を相続させるとしても問題はありません。ただし、子どもは遺留分を侵害されるので、遺留分減殺請求を行えます。
何かしらの理由で遺留分減殺請求をしないまま、相続の開始または減殺するべき遺贈や贈与があったと知った時から1年を超えてしまうと、遺留分減殺請求を行えなくなります。父が遺した遺言の通り相続が行われ、遺留分を取り戻せなくなるのです。
以上の通り、遺留分減殺請求を行える期限を過ぎると、遺留分を取り戻せなくなります。相続の開始を知った方は、遺言書の有無や相続財産などを調べて、遺留分を侵害されていないかできるだけ早く確かめる必要があります。遺留分を侵害されている可能性がある方は、定められた期限内に遺留分減殺請求を行いましょう。
期限を延長する方法
残念ながら、何かしらの方法で遺留分減殺請求を行える期間を延長することはできません。「相続の開始または減殺するべき遺贈や贈与があったと知った時から1年」あるいは「相続の開始があった時から10年」を過ぎると、遺留分減殺請求を行えなくなります。延長はできないので、定められた期間内に手続きを行うことが重要です。
遺留分減殺請求の手続きは、どのように進めればよいのでしょうか。
遺留分減殺請求の手続き方法
遺留分減殺請求の手続きは、請求する相手を明らかにするところから始まります。具体的には、遺贈を受けた人や生前贈与を受けた人などが対象になります。これらの人に対して、順番に手続きを進めていきます。
STEP1:配達証明付き内容証明郵便で通知
遺留分減殺請求の方法は、法律で定められているわけではありません。よって、口頭で請求しても有効と考えられます。しかし、口頭で請求すると、形に残らないのでトラブルに発展する恐れがあります。
例えば、「請求されていない」、「期限を過ぎてから請求された」などといわれても、反論することができません。
そこでおすすめなのが、配達証明付き内容証明郵便を利用することです。内容証明郵便とは、差出人が作成した謄本により「いつ、どのような内容の郵便物を、誰から誰に送ったか」を証明するものです。配達証明をつけると、相手に到着した日付を記載したハガキが届くので、郵便物を配達したことまで証明できます。
つまり、配達証明付き内容証明郵便を利用することで、遺留分減殺請求の通知書を送ったことを明らかにできるのです。
遺留分減殺請求の通知は口頭でも行えますが、トラブルに発展すると請求そのものを行えなくなる可能性があります。少し面倒かもしれませんが、配達証明付き内容証明郵便を利用するべきといえるでしょう。
通知書は、専門家に相談すればすぐに作成できます。通知後の対応なども含め、相談するところから始めてみてはいかがでしょうか。
遺留分の返還について協議する
配達証明付き内容証明郵便で遺留分減殺請求の通知を行ってから、遺留分の返還方法について協議を行います。協議により合意に達すれば、遺留分を返還してもらうことができます。
基本的には、認められた遺留分の額に達するまで遺産そのものを取り戻せますが、遺産の内容によっては難しいことがあります。
例えば、遺産が不動産の場合などです。遺産が5,000万円の不動産で遺留分が2,000万円であれば、不動産を共有すればよいわけですが現実的な解決策とはいえません。
遺留分請求を行うことで感情的なもつれを生じていることが多いからです。このようなケースでは、金銭賠償が基本となります。不動産の代わりに2,000万円を受け取り遺留分とするのです。
協議で合意に達すれば、遺留分の問題は解決します。協議でも解決できない場合は、次の段階へ進みます。
遺留分減殺調停
感情的なもつれなどにより、協議を行っても合意に至らないことはあります。双方の話し合いで解決できない時は、家庭裁判所で遺留分減殺調停を申し立てます。調停を申し立てるのは、相手の居住地を管轄する家庭裁判所です。
遺留分減殺調停のメリットは、調停委員会が双方の間に入り協議を進めてくれることです。直接、会話をする必要がなくなるので感情のもつれに邪魔されず合意を形成しやすくなります。調停が成立すると、調停調書が作成されます。
これをもって、不動産登記を変更することや相手の財産を差し押さえることなどができます。
調停が成立すれば、遺留分の問題は解決します。調停が不成立の場合は、遺留分減殺訴訟へと進みます。
遺留分減殺訴訟
遺留分減殺調停でも解決できない場合は、裁判官に解決方法を決めてもらう遺留分減殺訴訟を起こします。ポイントは、自分に遺留分があること、遺留分を侵害されていることを立証することです。これまでの協議とアプローチが異なります。
それぞれの主張をもとに、裁判官が遺留分を認めるかどうか、認める場合はその方法を決定します。
強力な解決方法といえそうですが、遺留分減殺訴訟は長期化することが少なくありません。また、遺留分が認められても、必ず希望する状態になるとはいえません。例えば、遺留分が認められた結果、不動産が共有になることもあります。
遺留分減殺訴訟を起こしてから和解をすることも可能です。長期化を避けたい方は和解に向けて働きかけるとよいかもしれません。和解すると、和解調書が作成されます。和解調書によっても、不動産登記を変更することや相手の財産を差し押さえることなどができます。
遺留分減殺訴訟まで進んでしまうと、多大な労力と多額の費用を費やす恐れがあります。基本的には、最後の手段と考えて遺留分減殺訴訟に至るまでに解決を図る方が良いでしょう。落としどころを見つけられない方は、専門家からアドバイスを受けるとよいかもしれません。
期限がある手続き④:相続税の申告、納税
相続税の申告・納税にも期限があります。ただし、すべての方で申告・納税が必要になるわけではありません。どのような方が対象になるのでしょうか。期限とあわせて解説します。
相続税とは
相続税は、相続または死因贈与を含む遺贈で受け継いだ財産の金額が大きい時に課される税金です。遺産の評価額が相続税の基礎控除を超える場合に課税されます。基礎控除とは、誰にでも適用される基礎的な控除です。基礎控除の額は次の計算式で求めます。
・相続税の基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人が1人の場合は3,600万円、2人の場合は4,200万円、3人の場合は4,800万円、4人の場合は5,400万円となります。すべての遺産の評価額が、この基礎控除を超えない場合は相続税を課税されません。また、相続税を申告・納税する必要もありません。
基礎控除を超える場合は、越えた金額に対して金額に応じた相続税率が適用されます。税率は、10%~55%の8段階に分かれています。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ― |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
出典:国税庁:No.4155相続税の税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
相続税の総額は、法定相続人が法定相続分通りに遺産を取得したものと仮定して、各人の取得金額に応じた税率を乗じて各人の相続税を求め、これらを合算することで算出します。
相続税の申告、納税の期限はどれくらい?
遺産の評価額が基礎控除を超える方は、相続税の申告と納税を行わなければなりません。相続税の申告と納税を行う期限は、相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内です。
ここでも問題になるのが「相続の開始を知った日」です。
基本的には、被相続人が死亡した日が相続の開始を知った日となります。法律を理解しておらず自分が相続人になっていることを知らなかったなどの理由で、相続の開始を知った日を遅らせることはできないので注意しましょう。
基本的には、被相続人が死亡した日の翌日から10カ月以内に相続税を申告・納税しなければなりません。
10カ月もあれば大丈夫と思ってしまいますが、自分で必要書類を集めて相続税を計算し、記入しているとあっという間に時間は過ぎます。また、遺産が基礎控除ぎりぎりの場合は、相続税の申告が必要か見極める必要もあります。自信のない方は、相続が発生した時点で専門家に相談しましょう。
遺産分割が間に合わない場合は期限を延長してもらえる?
相続税の申告・納税の期限は10カ月ですが、遺産分割に期限はありません。
感情的なもつれなどから、相続が開始してから10カ月以内に遺産分割内容が決まらないことはあります。このようなケースでは、相続税の申告・納税期限を延長してもらえるのでしょうか。
残念ながら、遺産分割内容が決まらないからといって相続税の申告・納税期限を延期してもらうことはできません。
申告期限までに遺産分割内容が決まらない場合は、法定相続分で遺産分割を行ったと考えて一時的な間に合わせで相続税を申告・納税するとともに3年以内分割見込書を提出することが一般的です。
3年以内分割見込書を提出することで、3年以内に分割内容が決まれば分割内容に応じた税額へ変更できるとともに節税効果の高い特例を適用できるようになります。相続税の申告・納税期限までに遺産分割が間に合わない方は、3年以内分割見込書を提出しましょう。
期限が過ぎるとどうなる?
相続税の申告・納税は、とても大変な作業です。期限を過ぎるとどうなるのでしょうか。
申告・納税期限を1日でも過ぎると、申告書の提出書が遅れたことに対する無申告課税、納税が遅れたことに対する延滞税などを課されます。
無申告課税の税率は、税額が50万円までの部分は15%、50万円を超える部分は20%です。期限を過ぎた後、税務署の調査を受ける前に自主的に申告をした場合は5%となります。
延滞税の税率は、納期限から2カ月を経過するまでは原則、年7.3%、2カ月を経過した日以後は原則、年14.6%となっています。
相続税に加えてこれらの税が課されるので、納税額は高額になる恐れがあります。
相続税を軽減できる特例を使えなくなる点にも注意が必要です。特例の中には、税額を大きく減らせるものがあります。特例を使えないと、無駄な税金を払うことになるかもしれません。
相続税の申告・納税期限を過ぎると、延滞税や無申告課税が課されるうえ特例を使えなくなります。メリットはないので、期限内に申告・納税することが重要です。
間に合わないと感じている方は、できるだけ早く専門家に相談してください。
相続税の申告、納税の手続き方法
遺産が基礎控除を超える人は、相続税を申告・納税しなければなりません。相続税の申告は、申告書を提出して行います。申告書は、国税庁のホームページでダウンロードできます。
相続税の申告手続きには、以下の書類などが必要です。
本人確認書類
1.マイナンバーカード(裏面)・通知カードの写し・住民票の写しなど
2.マイナンバーカード (表面)・運転免許所の写し・パスポートの写しなど
申告書に添付する書類
一般の場合
1.以下のいずれか:被相続人のすべての相続人を明らかにする戸籍謄本・図形式の法定相続情報一覧図の写し・以上2つのうちどちらかのコピー
2.遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し
3.相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
出典:国税庁:相続税の申告のしかた(平成30年分用)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/shikata-sozoku2018/pdf/10.pdf
以上のほか、特例を受けるための書類や相続財産を評価するための資料、債務控除に関係する領収書などが必要です。具体的に必要になる書類などは、遺産の内容などにより大きく異なります。
様々な資料が必要になるので、詳しい情報が必要な方は税務署や税理士事務所などでご確認ください。
相続税の申告書は、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出します。相続人の住所地を管轄する税務署ではない点に注意が必要です。
申告書は、同じ被相続人から財産を取得した方が共同で製作して提出することができます。何かしらの理由で、共同で製作・提出できない場合は別々に提出することもできます。
相続税の納付は、金銭による一括納付が基本です。
遺産の中に評価額の高い不動産があり現金が少ない場合は、相続税の納付が難しくなるかもしれません。相続税を払えない時はどうすればよいのでしょうか。
相続税が払えない時の対処方法
期限までに相続税を支払えない時は、一定の要件を満たすことで延納と物納が認められます。
延納とは、相続税を納付する期限を延ばしてもらい分割で納付する方法です。相続税額が10万円以上で金銭納付を困難とする事情がある人が、申告期限までに延納申請書を提出し許可を受けることで延納が可能になります。
延納できる期限は、原則、最長で5年です。相続した財産に占める不動産の割合が75%以上の場合は、不動産にかかる延納期間は最長20年となります。延納税額が100万円以下で延納期間3年以下の場合を除き担保が必要です。
相続財産のほか相続人の財産、第三者の財産を担保とすることができます。相続税のほか、延納期間に対応する利子税がかかります。
物納とは、金銭の代わりに物で相続税を納める方法です。
金銭一括納付や延納で納付が難しい場合、申告期限までに物納申請書を提出し許可を受けることで物納が可能になります。物納できる財産は、相続税の課税価格に算入された財産です。また、物納できる財産は、種類と順位が決められています。
物納財産の種類と順位
第1位 | 国債・地方債・不動産・船舶・上場株式・社債など |
第2位 | 非上場株式・社債など |
第3位 | 動産 |
物納財産の収納価格は、相続税評価額となります。よって、特例の適用を受けて評価額を下げた相続財産を物納すると損をする恐れがあります。
ケースによっては、相続財産の売却金額で相続税を納めるほうが得になることがあるので注意が必要です。ちなみに、物納で収納した一定の財産は、許可後1年以内であれば撤回して金銭一括納付あるいは延納に切り替えることができます。
期限がある手続き⑤:相続税の軽減措置の適用
相続税には、いくつかの軽減措置が用意されています。どのようなものが用意されているのでしょうか。
相続税の軽減措置の適用とは
相続税の軽減措置として以下のものが挙げられます。
配偶者の税額軽減
被相続人の配偶者は、法定相続分又は1億6,000万円のいずれか多い金額まで、相続などで財産を取得しても課税されません。
適用を受ける場合は、相続税額が0円であっても申告が必要です。
対象となる配偶者の婚姻期間は問いませんが、内縁関係にあるものは対象に含まれません。また、相続放棄した配偶者も税額軽減の対象になります。
小規模宅地などについての相続税の課税価格の計算の特例
相続などにより取得した宅地などで被相続人などの居住用または事業用に使用されていたものは、一定の要件を満たすことで限度面積まで評価減が認められます。具体的な要件、限度面積、減額割合などは次の通りです。
・相続前に居住用として利用されていた宅地など
特定居住用宅地などに該当:330m2まで80%の評価減
・相続前に事業用として利用されていた宅地など
1.貸付事業以外の事業用で特定事業用宅地などに該当:400m2まで80%の評価減
2.貸付事業用で貸付事業用宅地などに該当:200m2まで50%の評価減
この特例を適用することで、相続などにより取得した宅地などの評価額を大幅に減らせる可能性があります。特例を適用した結果、相続税の課税価格が基礎控除以下になった場合でも申告を行わなければなりません。
相続税の軽減措置の適用の期限はどれくらい?
配偶者の税額軽減、小規模宅地などについての相続税の課税価格の計算の特例(以降、小規模宅地などについての特例)とも、相続税の申告・納税期限までが適用の期限です。
基本的には、これを過ぎるまでに申告・納税を行わなければなりません。
期限が過ぎるとどうなる?
相続税の申告・納税期限までに手続きを済ませられないと、配偶者の税額軽減、小規模宅地などについての特例は適用されません。税額軽減、評価額減を受けられなくなります。
期限を延長する方法
未分割の財産は、配偶者の税額軽減、小規模宅地などについての特例の対象になりません。相続税の申告・納税時に3年以内分割見込書を作成・提出することで、3年以内に遺産分割を行った場合に更正の請求をすることで適用を受けられるようになります。
相続税の申告・納税の期限までに遺産分割の内容が決まらない方は、3年以内分割見込書を提出するとよいでしょう。
相続税の軽減措置の適用の手続き方法
配偶者の税額軽減は、相続税の申告書などに戸籍謄本、配偶者の取得した財産がわかる書類(遺言書の写し、遺産分割協議書の写しなど)を添えて税務署へ提出することで適用を受けられます。
小規模宅地などについての特例は、相続税の申告書に特例の適用を受ける旨を記載し、計算の明細書、遺産分割協議書の写しなど、必要書類を添付することで適用を受けられます。
遺産分割に期限はないが相続税の申告・納税などには期限あり
遺産分割に法律で定められた期限はありません。ゆっくりと話し合えばよいと思ってしまいますが、あまりに時間をかけすぎると相続税の申告・納税期限などに間に合わない恐れがあります。
遺産分割が相続税の申告・納税期限に間に合わないと、特例を利用できなくなるなど様々な影響が現れます。基本的に、時間をかけるメリットはないので、できるだけ早く分割内容を決めて申告・納税を済ませるほうが良いでしょう。
専門家の助けを借りると、協議・申告・納税をスムーズに進められます。相続税の申告・納税には高度な知識を求められるので、信頼できる専門家に相談してみてはいかがでしょうか。